SF游歩道

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2018年上半期の読書整理記

今週のお題「2018年上半期」

今年も早半年が過ぎてしまった。そこでこの上半期で読んだ本を整理し、下半期へと繋げていこうと思う。

上半期のベスト10

1.『万物理論』(グレッグ・イーガン山岸真、創元SF文庫)

上半期でダントツ。これぞSFといった感じで、長篇数本分のアイデアが贅沢に投入されていることもあって、もうこの作品だけあればいいんじゃないかと思ってしまうぐらいの大傑作。色々としっかり理解するのに丸一月かかったが、その分隅々まで楽しんだ。 

万物理論 (創元SF文庫)

万物理論 (創元SF文庫)

 

2.「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」(ケン・リュウ編、新☆ハヤカワ・SFシリーズ)

表題作『折りたたみ北京』をSFマガジンで読んだ時から、待ちに待っていた一冊。期待を裏切ることなく、むしろ遥かに上回ってきたので大満足。言語SFの馬伯庸の『沈黙都市』、ノスタルジックな夏茄の『百鬼夜行街』『童童の夏』も面白いが、イチオシは劉慈欣の『円』。これまで中国SFが紹介されてこなかったのが不思議なくらい面白い。読んでいない人は是非。 

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)

 

3.「世界の中心で愛を叫んだけもの」(ハーラン・エリスン浅倉久志伊藤典夫、ハヤカワ文庫SF)

先日亡くなった伝説的SF作家、ハーラン・エリスンの代表的作品集。一番面白かったのは表題作『世界の中心で愛を叫んだけもの』。エリスンの狂気が怒りと愛へと発展する様が素晴らしい。あえて「怒り」「愛」だけにスポットを当て、隠された「狂気」を描き出す文学技法、それを際立たせるために用いた円環的時空、まさに不朽の名作。『少年と犬』はエリスン自身の経験が反映されていそうな作品。読んだことはないはずだが、なぜだか話の流れを全部知っていた。どこかで子供向けのリライト版でも読んでいたのだろうか。 

4.「さあ、気ちがいになりなさい」(フレドリック・ブラウン星新一、ハヤカワ文庫SF)

短編の名手ブラウンとショート・ショートの神様星新一の奇跡のコラボレーション。普段SFを読まない人でも、星新一が訳したということで非常に薦めやすい一冊。完成度では表題作『さあ、気ちがいになりなさい』が随一だと思うが、個人的に気に入っているのは『沈黙と叫び』。いかにも星新一が好きそうな切れ味鋭い一作。

shiyuu-sf.hatenablog.com

5.「日本SF傑作選1 筒井康隆」(筒井康隆ハヤカワ文庫JA

日下三蔵の編集による日本SF第一世代の傑作選第一弾。とりあえず筒井初心者はこれを読んでおけば大丈夫。『佇むひと』『ベトナム観光公社』『フル・ネルソン』と後の作品につながる要素が全てこの一冊で網羅出来る。巻末の日下三蔵による解説と著作リストもありがたい。shiyuu-sf.hatenablog.com

6.「最後にして最初のアイドル」(草野原々、ハヤカワ文庫JA

山田正紀以来となるデビュー作での星雲賞受賞の快挙を成し遂げた新進気鋭のSF作家、草野原々の初の商業作品集。表題作は電子書籍でも読めるので、そっちを読んでから物理書籍を買うのがおすすめ。電子版と書籍版とで若干の変更点もあるので、それらを見つけるのも面白い。

shiyuu-sf.hatenablog.com

7.『ハローサマー、グッドバイ』(マイクル・コーニイ/山岸真河出文庫

サンリオSF文庫で紹介されて以来、絶大な人気を誇ったものの30年近く復刊されていなかった幻の名作。恋愛SFの名手コーニイの腕が光る一作で、ミステリとしても楽しめる。「SF史上最大の大どんでん返し」は伊達ではなかった。これから夏を迎えるので、夏のうだるような暑さの中で、また過ぎ去った夏の暑さを思い出しながら楽しんでほしい一冊。 

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

 

8.「トータル・リコール」(フィリップ・K・ディック浅倉久志大森望深町眞理子、ハヤカワ文庫SF)

ディックは最高。『追憶売ります』(新題『トータル・リコール』)、『少数報告』(新題『マイノリティ・リポート』)もいいが、個人的には『世界を我が手に』が一番。ディックにあるまじき病的なまでに美しい情景描写と、その美しい世界の崩壊の予感が絡み合った名作。 

shiyuu-sf.hatenablog.com

9.『2018年キング・コング・ブルース』(サム・J・ルンドヴァル/汀一弘サンリオSF文庫

題名に「キング・コング」とあるものの全く登場しない、謎のディストピアSF。色んな意味でサンリオSFの雰囲気を感じられる傑作なのだが、入手困難なのが残念。 今年中に手に入ったのならばぜひ一読を。

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10.「これはペンです」(円城塔新潮文庫

高校生くらいの時に挫折して以来の再挑戦となった一冊。『これはペンです』『良い夜を持っている』の2作が収録されており、どちらも円城塔の「小説」「書くこと」「言葉」に対する疑問や考察がうかがえる傑作。理解しきれていない部分もあるが、非常に楽しく読んだ。ちょうど創作のために温めていたアイデアが自分よりも遥かに高度な形で作品になっていたので、才能の大きな隔たりを感じつつも先輩である円城塔を超えたいという思いが湧き上がった。読んでいない人は、とりあえず「叔父は文字だ。文字通り。」という『これはペンです』の冒頭部を読むべし。

これはペンです (新潮文庫)

これはペンです (新潮文庫)

 

 

上半期に読んだ本

2018年上半期に読んだ本は全部で29冊だった。以下にベスト10に上げた本を除く19冊とその一言感想を示す。

 

『氷』(アンナ・カヴァン山田和子ちくま文庫

スリップストリーム文学に分類されるらしい名作。現実と虚構が入り混じる様はディック的で、SFっぽい側面もある。薬物による不安感を背景とした凍結する世界への不安は一読に値する。

 

「鍵」(筒井康隆角川ホラー文庫

筒井ホラーの傑作、『鍵』を表題とした短篇集。『鍵』は自分の行動によって恐怖が次々に描き出される構造になっているのが憎らしい。ただ、筒井ホラーを楽しむなら角川文庫の「佇むひと」の方がいいと思う。

 

『ゲームウォーズ』上下巻(アーネスト・クライン/池田真紀子、SB文庫)

スピルバーグ監督作品『レディ・プレイヤー1』の原作。とはいえ、映画版と原作ではかなりの相違点があるので、映画を見た人もまだ読んでいないならこっちも読むべし。80年代のオタク文化に詳しくなくても、注釈が豊富なので安心。

shiyuu-sf.hatenablog.com

 

『SF魂』(小松左京新潮新書

小松左京の文学を知る上で重要な一冊。文学志向だった小松が、なぜSFというフィールドを選んだのかが小松自身の筆で語られる。小松の戦争体験に関連した部分は、日本SFを語る上では見逃せない。

 

オブ・ザ・ベースボール」(円城塔、文春文庫)

円城塔の純文学方面でのデビュー作。すっとぼけ方と「世界のナメ方」が既に完成されている。癖は強いが、ナンセンスな世界観を楽しめる一冊。

 

「スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選」(ケン・リュウ他/中原尚哉・古澤嘉通、創元SF文庫)

ゲームを題材にしたSF短編集だが、ゲームを小説に落とし込む部分に若干無理が感じられる。しかし、トリを飾るケン・リュウは明らかに別格。物語にゲームを導入する理由をつけ、ゲーム無しでは語り得ない物語を作り上げた。読む際は、収録順に読み進めることをお勧めする。

 

『小説 君の名は。』(新海誠、角川文庫)

映画が大ヒットを記録した『君の名は。』。小説版では、映画では表現しづらい登場人物の内面を描写しており、読めば映画の理解も深まることだろう。ただし、やはり新海誠は映画監督なので、過度の期待は禁物。

 

「無常の月」(ラリイ・ニーヴン/小隅黎伊藤典夫、ハヤカワ文庫SF)

ハードSFの名手、ニーヴンのヒューゴー賞受賞作を中心とした傑作選。今では入手困難な作品が多くなってしまったニーヴンだが、このように再刊されるのは若いファンにとっては非常にありがたい。重力を重要なガジェットに使っている作品は珍しいと思う。

 

「凶夢など30」(星新一新潮文庫

安心安全星新一。この本はSFというよりも奇想・幻想寄りの作品が多い。晩年の作品ということもあり、文章の転がし方で読ませる作品が多い印象。やはり読みやすい。

 

寺山修司全歌集」(寺山修司講談社学術文庫

珍しく小説ではない一冊。寺山修司はあまり好きではなかったが、解説を読んで評価される理由が分かった。本屋で解説だけでも目を通して欲しい一冊。

 

人工知能の見る夢は AIショートショート集」(人工知能学会編、文春文庫)

恥ずかしながら、初めて読む作家が多かった。かんべむさし新井素子は明らかに別格。これは他の作品も読んでみたくなった。学会誌にこれが載っていたというのは、非常に贅沢なことだと思う。

 

『カリス・イン・ポストワールド』(維嶋津、カクヨム

2015年の第3回ハヤカワSFコンテストの最終候補作『Dystopiartwork』の改稿作。創作行為すらもAIに奪われてしまった世界を描くディストピアもので、同じ作者に短編にも似たモチーフがあることから、作者の考えがうかがえる一作。カクヨムにて無料で読める。

 

『メカ・サムライ・エンパイア』上下巻(ピーター・トライアス/中原尚哉、ハヤカワ文庫SF)

去年の星雲賞受賞作『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』の続編。前作よりもややマイルドで、ロボットの活躍に重点が置かれているので、読みやすい。中原さん曰く「英訳されたラノベをもう一度訳し直しているようで、不思議な感覚だった」とのこと。

 

「火葬国風景」(海野十三創元推理文庫

戦前の科学小説家、海野十三の傑作選。これも日下三蔵の手によるもの。日下三蔵の解説文はいつも頼りにしている。時代的な雰囲気を感じつつ、日本SFの源流を楽しめる一冊。オススメは『十八時の音楽浴』、太平洋戦争4年前のディストピアSF。

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「アリスマ王の愛した魔物」(小川一水ハヤカワ文庫JA

星雲賞受賞作『アリスマ王の愛した魔物』を表題作とした最新SF作品集。どれも面白いが、『ゴールデンブレッド』がイチオシ。元々英訳が初出の作品で、いかにも一水らしい希望に燃える人間観が魅力。

 

「夢の検閲官・魚籃観音記」(筒井康隆新潮文庫

筒井康隆の再編作品集。入手困難な作品が収録されており、時に心理学的な作品が多い。『馬』は隠れた名作で、松浦寿輝も絶賛している。『シナリオ 時をかける少女』も(色んな意味で)傑作。

 

「死の鳥」(ハーラン・エリスン伊藤典夫、ハヤカワ文庫SF)

同じくハーラン・エリスンの各種受賞作を中心とした作品集。世間での評価が高いのは『死の鳥』らしいが、個人的には『「悔い改めよハーレクイン!」とチクタクマンは言った』が随一。エリスンの怒りが率直に伝わる名作。