SF游歩道

語ろう、感電するほどのSFを!

読書録抜粋10

学部入学以降付けている読書録からの抜粋その10。すべてノートに万年筆で一発書きなので文章はところどころで破綻しているが、それも当時の味ということで。コメントは現在のもの。

 

2018.9.9 宮内悠介『超動く家にて』創元日本SF叢書

宮内悠介のバカSF短篇集。宮内は『盤上の夜』以来。真面目さを感じていたのだが、こういうバカな一面も見れて嬉しい。SFといえばのバカはここまできっちり伝わっている。一番気に入ったのは「文学部のこと」、読みながら円城塔もやしもんを思い浮かべていたら、あとがきで宮内本人が両方をモチーフと言っていたので嬉しくなった。感覚は違ってはいなかった。もっと気軽に宮内を読もうと思う。

コメント

言及のある作品以外だと、「トランジスタ技術の圧縮」も面白かった。当時、宮内はSF・推理研の中ではSF読みに主に読まれていて、ミステリ読みの方にはあまり読まれていなかった印象。ミステリ読みと言ってもいわゆるジャンルミステリ以外はあまり読まない人間が多かったのも影響しているかもしれない(とはいえ、宮内はワセミス出身なのだが)。

この本の収録作は全体的にジャンル的雰囲気が薄い。気楽に読める馬鹿話なので、ここから読み始めるのもいいだろう。現在は文庫化されて創元SF文庫に収録されている。

 

2018.9.11 『創造外科』イタリアSF文庫

入手にかなり苦労したが、その価値は十二分にあったと思う。読んでいてまず感じたのは、日本とも、欧米とも、中国のSFとも異なる語り口。言語や文化圏が異なるとこんなにも違うのかと驚いた。イタリアSFはカルヴィーノしか読んだことがないので全く未知の世界だった。異質な語り口ながら、「ディーゼルアルカディア」や「ランナー」のように日本文化の影響を垣間見せる作品もあり、面白かった。「ディーゼルアルカディア」は安易な恋愛ものへの展開を見せないのかと思いきや、最後に(伏せ字)になりよかった。ディーゼル・パンクの描写もいい。宮崎駿的だなと思いながら読んでいたが、実際にイタリアでもそのような指摘はあったらしい。「ランナー」は、なぜだろうか、話の内容自体はそこまで目新しくもないのに、ずいぶん引き込まれた。語りが上手かったのだろうか。一番衝撃的だったのは「カレーナ」。生きた少女を引き上げたとき、一緒に過ごすうちに心を開くとか、そんな感じだと思っていたのだが、実際に作中で起こったのは(伏せ字)。読み通せば、あの場面で(伏せ字)しなければ全てを台無しにしてしまうのは明白だが、よく書いたものだなと。そういう点も含めて、面白かった。一番面白かったのは表題作「創造外科」。薬物による身体改造が蔓延る世界で、これまたグロテスクな「創造外科」を主軸に話が進む。グロテスクさが心地よいというか、グロテスクさが自分自身の強調、ひいては不安につながる。祖先から受け継いだアイデンティティの否定、バイオメカトロニクスによる肯定と、対立構造が多く表れ、互いを強調する。

コメント

イタリアSFを多数収録した文庫版の同人アンソロジー。言及のあるマッシモ・スマレ「カレーナ」は邦訳されたダリオ・トナーニの長篇『モンド9』のシェアードワールド短篇。

イタリアのSFはおろか、そもそもイタリアの小説に触れたことがないはずなので、まったくの白紙の状態で読むことになった一冊。なので、あからさまに宮崎駿的な情景に出会って、一方では安心しつつ、一方では未知であって欲しかった世界に既知の事物の痕跡が見えて少ししょげつつ。日本のサブカルチャーに登場する中世欧風ファンタジーな世界は何かと議論の題材になるが、本場の人たちもなかなか楽しんでいる様子を直に知ることが出来たのは、大きな収穫だったと思う。

モンド9 (モンドノーヴェ)

モンド9 (モンドノーヴェ)

Amazon

 

2018.9.29 日下三蔵編『筒井康隆、自作を語る』早川書房

SFMに連載されていた第一部「筒井康隆、自作を語る」、徳間文庫版の自選短編集に収録されていた自作解題からなる第2部、そして全ての著作を網羅した作品リストなど、流石という感じの一冊。個人的にはSFMも徳間も全部持っているのでそこは別にという感じだが、作品リストはありがたい。

コメント

SFMでリスト以外の読み物部分は全て既に読んでいたので感想は書かれていない。とりあえず、康隆名義の作品が実は弟の俊隆の作品だったとか、そういう本人じゃなきゃわからない裏話が明確に記録されたのは大きいと思う。筒井より筒井作品に詳しい日下三蔵という笑いどころもある。

こういう史料的価値のある文章を読むと、自分もきちんと記憶のあるうちに何かしらの記録を残さなければならないと思う。その点、SF研関連のことはしっかり残したはずなので、あとはこれから自分がやることを丁寧に記録し保存するということになるか。史料保存とかリスト作りは結構性に合っている。

本作は文庫化され、現在ではハヤカワ文庫JAに収録されている。筒井の近影を見るたびに、<文豪>が似合うようになったものだなと思う。

 

2018.11.22 ブライアン・W・オールディス『地球の長い午後』ハヤカワ文庫SF

なぜか記録を忘れていて『伝奇集』と前後していた。文明崩壊後の地球を、想像力のみで作り上げた一冊。相変わらず面白いが、ニューウェーヴか? よくわからない。ニューウェーヴの中では一番キャッチーで面白いが、ニューウェーヴはそこにはないと思う。

作品の中で一番好きな生物はツナワタリ、好きなシーンは27頁の地球に蜘蛛の巣がかかるシーン。古びた地球に蜘蛛の巣が、というのは非常に印象的。それはそうと伊藤典夫は天才。

コメント

これは部会の課題本。この頃SF研でニューウェーヴが流行っていて、読んでないやついないよな的な確認の意味合いも兼ねてこの作品を課題本になったというような経緯だったと思う。

ニューウェーヴではオールディスよりもバラードの方が好きで、ニューウェーヴの思想についてもバラード寄りの解釈を持っているので、この作品を指してニューウェーヴと言われるとなんかしっくりこない。

とはいえ、ニューウェーヴの作法である、状況説明なしに物語を展開させることは本作で徹底されているので、ニューウェーヴと無縁とは言えない。このニューウェーヴで試みられた説明の排除がSFの読みづらさの根底にあり、かつそれがSFのかっこよさの根源でもあるので難しいところ。バラード、ティプトリー、ギブスン、イーガンのラインが好きなのはここらへんの描写周りが大きいと思う。

この前後では海外の未訳短編をかなり漁っていた形跡がある。合わせて、電子書籍をかなり読み散らかしている旨の記述もある。

 

2018.12.29 坂永雄一、曽根卓、伴名練、皆月蒼葉『改変歴史SFアンソロジー』カモガワ文庫

ついに手に入れた念願の一冊。どれも面白く、東京まで行って買った甲斐があった。丁度今日、有明でこの本が売り切れたという話を聞いたところで、文フリで買っておかなければ一生後悔することになっただろう。一番面白かったのは伴名練「シンギュラリティ・ソヴィエト」、これは間違いない。チューリング関連もいいが、人工知能がらみではカスパロフ、宇宙開発方面ではもちろんスプートニクがあり、そもそも宇宙開発はSFが元だったわけで、ネタの散りばめ方が素晴らしい。曽根卓「緑茶が阿片である世界」は小粒ながら面白い。題名そのままの作品で、その素直さがいい。確かにこの作品は一発ネタで、これ以上は引き伸ばせないだろう。皆月蒼葉「江戸の花」は上手い。江戸の花を3つ全て使っていたのがいい。坂永雄一「大熊座」は自分がまずい読み方をしていて、ネタに気がつくのに時間がかかった。気づけば面白かった。

コメント

初版は確かに当時売り切れたが、のち重版して現在でも紙版で購入可能な様子。ただし、2版ではあるがカバーなしの異装版という扱い。

「シンギュラリティ・ソヴィエト」はもちろん、他3作も非常にレベルが高い。好きなアンソロ5冊選べと言われたら間違いなくこれが入ってくるくらいには好き。

色々と経験が積まれてきて、このあたりから分析っぽい書き口が増えてくる。