学部入学以降付けている読書録からの抜粋その2。すべてノートに万年筆で一発書きなので文章はところどころで破綻しているが、それも当時の味ということで。コメントは現在のもの。
- 2017.1.5 森鴎外『山椒大夫/高瀬舟 他四篇』岩波文庫
- 2017.1.30 円城塔『Self-Reference ENGINE』ハヤカワ文庫JA
- 2017.4.17 小西甚一『日本文学史』講談社学術文庫
- 2017.4.20 『北原白秋歌集』岩波文庫
- 2017.4.26 勝小吉『夢酔独言』講談社学術文庫
- 2017.5.8 トム・ゴドウィンほか『冷たい方程式』ハヤカワ文庫SF
- 2017.5.10 星新一『妖精配給会社』新潮文庫
2017.1.5 森鴎外『山椒大夫/高瀬舟 他四篇』岩波文庫
これまで4冊続けて哲学書を読んできたので、今度は小説。何度も読んだ内容なので特に書くことはないが、改めて読んだ解説が実に良い文章で、誰かと思ったら斎藤茂吉だった。それなら読みやすくて面白いはず。解説に注目して読むことも大切なのかもしれない。
コメント
この直前に読んでいるのは、記述によれば、ショーペンハウエル『読書について』、『論語』、プラトン『ソクラテスの弁明/クリトン』『メノン』。哲学書と言ってもそんな大した分量ではない。多分、SF研の先輩方の理論武装に対抗しようと、基礎の基礎から固めに行ったものと推察される。先輩方が話していたアレントとかフーコーとかまで行き着くのに何年かけるつもりだったのだろうか。
あと、何度も読んだからといって、感想を記録しない読書録とはいかがなものか。大方当時書くのが面倒くさくなって形だけ取り繕ったものだと思うが、こうして自分の文章を読み返したとき、当時の感想を辿る術がなくなってしまったのは悲しい。その時点の自分がどのように考え、どのように受け取ったのか、それを記録出来るのはその時点の自分しかいない。これからは、少しずつでも良いので、しっかりと感想を残していこうと思う。
2017.1.30 円城塔『Self-Reference ENGINE』ハヤカワ文庫JA
何度読んでもわからん。周囲もフロイトのやつは面白いとだけ言っていて何もわからん。将来、誰かわかる人がいたら教えてほしいと切に思う。ただ、最後のやつだけは妙に感動的で、何か心のバグを引っ掛けられている気がする。
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それはそう。わかる人がいたら教えてほしいとは、今でも思っている。
この直後に伊藤計劃『The Indifference Engine』も併せて読んでいることから、期末試験前の現実逃避の一環だったことが伺われる。試験後には夢野久作『ドグラ・マグラ』、伊藤計劃『虐殺器官』『ハーモニー』をまとめ読みしている。
2017.4.17 小西甚一『日本文学史』講談社学術文庫
昭和27年にこの本が書かれたということなので、既に65年もの歳月が流れたわけだが、雅俗で分類しての解説は非常に面白かった。古代、中世の分析が特に面白い一方、近代に入ると急に精彩を欠くのは、流石に近すぎるからだろうか。時代を考えれば、新感覚派以降に詳しくないのは仕方ないだろう。今現在の文学で、後の世に通ずるような普遍的価値を提出出来ているものはあるだろうか。ドナルド・キーンや小林秀雄もまとめて読んでいきたい。
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こんな本も読んでたんだな、という一冊。記憶からすっぽり抜けていた。
読んだ時期からして、新歓のためにひたすら一日中部室にいたときに読んだのだろう。このため、以降5月末までに読んだ本の量が尋常ではない。『日本文学史』と合わせ、ホーガン『星を継ぐもの』、小松『午後のブリッジ』、筒井『旅のラゴス』を2日で読んでいる。『日本文学史』は手持ちの本で、『星を継ぐもの』が推理研の新歓課題本、ほか2冊はおそらく部室に転がっていたもの。
2017.4.20 『北原白秋歌集』岩波文庫
「草わかば 色鉛筆の 赤き粉の ちるがいとしく 寝て削るなり」に代表されるように、北原白秋にはなんとなく正統派な印象があったのだが、初期の歌には肉感的な作品が多く、特に人妻関連の歌が多いのでその印象は完全に崩れた。童話や童謡のイメージが強かったが、それはそれとしてこういうものも人間的でいいかもしれない。また詩集を読み続けるのもいいかもしれない。
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これは本当に衝撃的だった。マジで人妻関連の歌が多かった。ある意味健全とも言える。
この後には、宣言通り詩集が並び、『北原白秋詩集』、『寺山修司全歌集』、土井晩翠『晩翠詩抄』、『高村光太郎詩集』、そして紀貫之『伊勢物語』『土佐日記』となぜか古典に飛んでいる。
2017.4.26 勝小吉『夢酔独言』講談社学術文庫
勝海舟の父にして、一生を無役のまま終えた不良旗本の自伝。子供の頃から暇さえあれば喧嘩して、また大人になっても酒・喧嘩・吉原が好きで度々金欠になり、放蕩でとても旗本とは思えない生活ぶり。養父や兄たちがまともなのと対照的。勝海舟に荒れた風味を感じるのはこの父のせいか。江戸期の文章ではあるが、幕末に近く、また口語で書かれているため、楽に読めた。単純に内容が面白かったのもある。仰々しい文学も面白いが、当時の一市民から見た世間を垣間見るのも面白いと感じた。
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これは本当に面白い一冊。堕落した自らの生活を詳らかにし、勝家の子々孫々に対して反面教師にするようにとのことで書かれたもの。旗本としての俸禄で食っていくのではなく、遊びで鍛えた鑑定眼で刀剣バイヤーとして食っている話とか、金玉を野犬に食われた勝海舟に添い寝して看病した話とか、本物のべらんめえ口調で語られる話はどれも面白い。原文そのままではあるが、そのままで普通に読めるので問題なし。
2017.5.8 トム・ゴドウィンほか『冷たい方程式』ハヤカワ文庫SF
一番は表題作「冷たい方程式」。面白いが、女の扱いが悪すぎる。1950年代の作品だから仕方ない部分もあるかもしれないが、これでは酷すぎる。「たったひとつ」だけを残してこっちは埋没させていい。あとは「ランデブー」と「ふるさと遠く」が良かった。「危険! 幼児逃亡中」は話の流れが良かった。長さも丁度良く、話を最大限膨らませていて、挿入されるエピソードも含め、もの悲しい雰囲気の演出がいい。
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冒頭の「冷たい方程式」評は今も大きくは変わらない。これを読むくらいならティプトリー「たったひとつの冴えたやりかた」でいい。ただ、後世における検証が出来なくなるのも問題なので、埋没させろという方向ではなく、拾い上げないという方向にしたほうがいいと思う。
後半に挙げられている作品の記憶はない。過去の自分が誉めているものを、記憶をまっさらにして読み直すのも面白い。
2017.5.10 星新一『妖精配給会社』新潮文庫
この本の単行本は昭和39年刊行ということで、初期後半の頃の作品にあたる。初期から既に文体が確立されていて、普遍性が既に培われている。そもそも『ボッコちゃん』『ようこそ地球さん』の刊行が昭和36、7年なので、最初期から名人の域に達してはいるのだが。作品としてはやはり「ひとつの装置」が一番で、他に表題作「妖精配給会社」「作るべきか」「ごきげん保険」「指導」。「指導」は落語だが。
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少しずつでもいいので、日常的に文章を書くことは着実に力になると思う。実例が必要なら、『ハヤカワ文庫JA総解説1500』の『妖精配給会社』評と比較してほしい。同じ人間が書いたとは思えない。まあ、世に出す前提で時間をかけて推敲を重ねた文章と、人に見せるつもりなど全くなく書き散らした文章とではそもそも違うのだが。
この文章を書いた4年後に商業誌に星新一評を書くとはまったく考えておらず、ましてや星新一公式サイトに寄稿することになるとは夢にも思わず。
この前後には円城塔『道化師の蝶』、筒井『にぎやかな未来』、星『未来いそっぷ』『おのぞみの結末』『たくさんのタブー』『凶夢など30』が並び、手持ちの本が切れて部室内の本を読み漁った形跡が窺える。