SF游歩道

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読書録抜粋13

学部入学以降付けている読書録からの抜粋その13。すべてノートに万年筆で一発書きなので文章はところどころで破綻しているが、それも当時の味ということで。コメントは現在のもの。

 

2019.5.17 レイ・ブラッドベリ『万華鏡』創元SF文庫

魂の故郷ブラッドベリ。好きな作家の物語というものは偉大だ。「草原」「万華鏡」「霧笛」「やさしく雨ぞ降りしきる」。日本におけるブラッドベリ作品の唯一の弱点は翻訳の耐用年数超過だけだったので、ここで中村融の訳によって仕立て直されたのは大きい。もちろんブラッドベリの時代臭さは確かに残っており、そこら辺はいい塩梅だと思う。

コメント

ブラッドベリは素晴らしい作家で、自分自身大好きな作家だが、クセもまた強く人によって好き嫌いが激しい作家でもある。

ブラッドベリを読むなら、『華氏451度』は絶対として、『火星年代記』『万華鏡』『太陽の黄金の林檎』の3冊を読むという流れがいい。『華氏』はブラッドベリ云々をおいて別格なので有無を言わさず読む。後者3冊を読んで収録短編のうち1作も引っ掛からなかったとしたらブラッドベリは一生合わないのでリタイアして大丈夫。

ブラッドベリはそもそもの原文からして読みにくく、その上に時代を感じさせる箇所が相当数存在し、しかもその時代的な箇所がブラッドベリ最大の魅力の一つである郷愁と不可分であることが嫌われる原因であると考えられる。これは表題作である名作「万華鏡」がまさに当てはまり、男たちの生き様が煌びやかに描かれる一方、女の扱いがいかにも時代がかっており、この点において現代では読み味を損なってしまうだろうと思う。(もちろん、成立した時代や当時の読者層を考えれば仕方のないことであると思う)

この本は元々サンリオSF文庫収録で、訳を改めて創元SF文庫に収録された。

 

2019.5.19 草野原々『これは学園ラブコメです。』ガガガ文庫

よくもこんなひどい小説が世に出てきたものだと思う。清々しいまでのクソ。フィクションという構造に対して意識的なのはいいと思うが、あからさますぎる。プロットを書き殴っただけのものであり、小説とは一体といった感じ。

コメント

とんでもない悪口だが、本作についてはこれが適切な評価であり、むしろ罵倒は褒め言葉だと思う。これを世に出すことを許した版元の蛮勇を一番評価するべきかもしれない。

これと前後して、同じ原々『大進化どうぶつデスゲーム』、柴田勝家『ヒト夜の永い夢』、三方行成『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』『流れよわが涙、と孔明は言った』を読んでおり、読書の文脈ははっきりとしている。

 

2019.5.20 グレッグ・イーガン『ビット・プレイヤー』ハヤカワ文庫SF

随分と遅くなってしまったが、やっぱりイーガンはいい。一番面白かったというか、驚いたのは表題作「ビット・プレイヤー」。立式*1させられたのは思ってもみなかった。西洋でもなろう小説的なのはあるんだろうか。人間の普遍性というものを嫌な形で実感することに。「七色覚」は非常にイーガンらしい作品。リュウ「天球の音楽」、星新一「空への門」と比較するとそれぞれの作家の特色がよく見える。そして「不気味の谷」もイーガンらしい。ある瞬間に視界がぱーっと開けていく感覚が心地良い。

コメント

イーガンは非常に小説が上手い作家だと思う。何気ない描写が作品全体のヒントになっていたり、一見違和感を覚える描写が後に綺麗に回収されたりと、小説的技巧にも相当配慮している作家なのだが、それが主たる読者層がイーガンに求めているものとは異なるせいなのか、認識がかなり乖離している感覚がある。もうちょっとイーガンの上手さを褒めた方がいいというか、広めるのを俺の仕事とするべきというか。

 

2019.5.21 『ラテンアメリカ五人集』集英社文庫

良かった。どれも面白かったが、特に面白かったのはバルガス゠リョサの「小犬たち」とパスの「青い花束」。「小犬たち」を真似しようとして失敗したのであろうくだらない作品の数々が記憶から呼び出されてきた。あの技量を真似しようとすればそうなるのは当然とも言える。パス「青い花束」はものすごく短いがいい。小説とはこうあるべきではないか。あとパスの「白」はものすごく円城塔

コメント

正直アストゥリアスはよくわからなかったが、それ以外の4人は面白かった。バルガス゠リョサはここまでハマるとは思っていなかった。

この本を読んだのは、筒井康隆の影響はもちろん、円城塔の源流を探ろうという目的もあったので、パス「白」を読んで確信を得たのも大きかった。

 

2019.5.21 星一星新一『三十年後』新潮社

単純なSFとしては評価出来ないが、妙に頑張っている未来予測の部分と、オチでのPRが随分星一という人の影響をしっかり映していて面白かった。アメリカの大学を出た、当時のインテリ中のインテリであっても、こんな変な論理を巡らせるものなのかと、そういう部分も面白かった。星新一の要約部分はもちろん、意外と本文も面白かった。

コメント

星一の文章を読むのは当然初めてだったが、その強引さと強烈なアピール力には驚かされた。若き文明国家日本を自ら引っ張ろうという空回りすれすれの馬力があからさまに見えるのが面白い。最後の星製薬アピールへの強引な誘導が一番の見せ所。

*1:等式を立てること。要は、作中の物理現象を数式を用いて検証したということ。