SF游歩道

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80’s愛にあふれた、現実と地続きのVR空間で繰り広げられる魅惑の宝探し━━『ゲームウォーズ』(アーネスト・クライン/池田真紀子、SB文庫)

書籍情報

作者:アーネスト・クライン

訳者:池田真紀

出版社:SBクリエイティブ(SB文庫)

形態:長編小説

 

感想

ギークの、ギークによる、ギークのためのお話。80's愛にあふれた小説で、ちゃんとエンタメしつつ、作中のヴァーチャルゲーム空間であるOASISを含んだサイバーパンクな光景や、主人公ウェイドの暮らすトレーラー・パークの九龍城めいた光景がでてきて非常に面白かった。

まずSFファンとしては、お宝探しのための80’sの必修知識として、カードやシモンズのSFが広く読まれているというのに好感をもった。80年代における歴史的名作である『エンダーのゲーム』や『ハイペリオン』はそのような外部的動機で読むような薄い作品ではないが、少なくとも今のように読まれないよりは、より多くの人に読んでもらっているほうが好ましい状況かなと思う。

次はちょっとSFを離れて。この物語は、ひとりの少年の成長譚として非常に面白い。家族と幼くして死に別れ、スラムで親戚に搾取されながら、その現実から逃げるようにしてOASISに没入している。OASIS上で、本当の顔も名前も知らない(表面的な)友人たちと学校生活を過ごし、放課後はまた顔も本名も知らない親友と共に過ごす。憧れているのはこれもまた顔も本名も分からないネット上の有名人で、全てのエネルギーを注いでいるのはそれが本当なのかも分からない宝探しゲーム。不確かな浮ついた現実から、宝探しのひとつ目の鍵であるコッパー・キーを最初に見つけたことで避けられない現実に絡めとられていく。やがてお宝を巡って、架空現実でも真の現実でも熾烈な争いに巻き込まれていくが、その巧妙な駆け引きには、かつてのいじめられていた屈折したギークの姿はない。そして最終的にウェイド(=パーシヴァル)はOASISのすべてを手に入れることになったが、架空現実からちょっと距離を置こうとし始めている。生い立ちのせいもあるだろうが、これまでのウェイドが今実際に生きている現実世界に対して興味を失っていたのとは対照的だ。続編もあるらしいので、この物語がどのように繋がっていくのか期待が高まる。

最後に、この作品におけるサイバーパンクの役割について。この作品は、『ブレードランナー』や『ニューロマンサー』といった過去のサイバーパンク作品のような強烈さはなかった。もはやサイバーパンクは強烈な恐るべき未来ではなく、馴染み深い現実になってしまったのだ。しかし、今現在のように「VR・AR技術が当たり前になった世界のちょっと先を描いた」サイバーパンクとして、この作品には地続きの魅力があった。サイバーパンクの重要な要素である「人体からの疎外」「社会からの疎外」「雑多なアジア感」が異質感なく日常の生活に溶け込んでいる。サイバーパンクが、かつて描かれた遠い未来に起こるかもしれない怖くて現実離れした物語から、今まさに起こり得る現実として描かれたということだ。この点について、『ゲーム・ウォーズ』はサイバーパンクに新たな役割を与えたと言えるだろう。

 

この話を読んでいて、SFはまだまだ物語を引き受ける枠組みとして、また物語を彩るガジェットとして活躍できると感じた。特にこの作品はサイバーパンクVR世界の描写に富んでいて、上手く映像化すれば非常に面白い作品になると感じた。この作品は、小説でも十分楽しむことが出来るけど、視覚作品となることでその真価を発揮すると思う。そういうことで、スティーヴン・スピルバーグ監督によって映画化されるということなので、非常に期待している。(映画化題『レディ・プレイヤー1』)

余談ではあるが、私のもっているこの本の下巻の後半部分に裁断ミスがあって、デジタルなお話を楽しんでいる中にありつつもアナログさを感じることが出来た。全く話の内容とはかかわらないのだが、デジタルとアナログの対比が印象的で心に残った。

あと、最後のロボット大戦的な展開、自分が搭乗機体を選ぶとしたら、是非『Zガンダム』の可変MS・メタスでお願いしたい。ガンダムRX-78)は出てきてたし、メタスもあるはず……。