SF游歩道

語ろう、感電するほどのSFを!

伴名練「全てのアイドルが老いない世界」について

伴名練の新作は、今回もいい作品だった。《小説すばる》掲載ということもあって、一見SF色薄めな仕上がりにも見えるが、一通り読めばSFに対する批評的姿勢がよく見えてくるようになる。この人の作品を読むのは、変わらず恐ろしい。

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量子力学の原理と不確定性関係について、ついでに量子力学風SFも少々

今回は珍しく物理学の話題。まず量子力学の基本原理を提示した上で、それらの原理から不確定性関係(いわゆる不確定性原理)を導出し、不確定性関係が量子力学の根幹を成す原理ではないことを示す*1。あとついでに量子力学っぽいSFのどこが物理学的に間違っているかを指摘する。

あらかじめ、この記事は様々な厳密性を大変に欠いていることを明示しておく。以下、私のノートを元に記述する。

*1:[6]p.36より引用“量子力学の「不確定性原理」は、量子力学の公理から演繹されているので、原理というよりは定理であり、名実ともに「不確定性関係」と言うべきだろう。”

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SF遍歴、そしてSFファンとしての世代間隔絶

去年から積極的にSFイベントに顔を出すようになって、SFファンとしての世代の差というものをしかと実感するようになったので、私が楽しんできたSFを順番になぞっていってひとつ文章にまとめてみようと思う。

この文章を通して読めば分かる通り、私のSF遍歴は極めて特殊なものではあるのだが、それでも面白い発見が得られるようなものになっていると思う。(そもそも、私の世代で積極的に発信している人間が非常に少ないのだから)

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漏水被害記録

細かいことまで書いていくつもりなので、いつもの簡潔さはない。

 

2020年3月28日19時ごろ、帰省・研究出張で合わせて3週間ぶりに仙台の部屋に帰ってきたら、部屋が水浸しになっていた。

玄関開けてすぐのキッチンの床一面に水が溢れていた。以前、キッチンの水盤と配管の継ぎ目のパッキンが劣化していたことを原因とする軽い漏水の被害に遭っていたので、またそれかと思ってキッチン下の収納を開けて確認したが、どうにも違うようだった。

収納の扉を閉めて顔を上げる途中で、顔のすぐ脇の壁が膨らんでいるのに気づいた。そのまま目線を上げると、キッチン横のトイレの外側の壁紙がボコボコに膨らんでいた。そして、天井から滴ってきた水が眼鏡に当たった。

戸を開けた先の、居室の方がより酷かった。部屋の中ほどまで水が広がっていて、天井や壁から絶えず水が滴り落ちてくる。とりあえず部屋に入って、緊急連絡先と貴重品をまとめて持ち出して、上階の住人(空室だった)に水を止めるよう伝えてのち、(大学生協の管理物件だったので)生協と実家と友人に立て続けに電話をかけた。ここまで5分ほど。

 

30分で生協の方がまず来て、とにかく原因を突き止めて水を止めることに。そうこうしているうちに友人が車を出してくれて、私のもっている重要な文献をまとめて救出。

その後も生協の方が次々にやって来て、最終的には自分含め6、7人で3時間以上かかって荷物の運び出しが終了。出した荷物は同じ建物の別の部屋に仮置きすることになり、1350冊以上の蔵書と生活用品、そして研究で使っていた膨大な数の論文が混在する魔窟が無事誕生。

 

このとき、被害はSFMが4冊だけ、と言ったが、それは部屋の表に出ていた本の被害だけで、実際にはもっと深刻だった。一番被害が大きかったのは段ボールに入れて押し入れにしまっていた本。押入れの壁面と床面を伝って水が回って来ていたらしく、それらの本の半分ほどを廃棄。幸い、重要度の低い本をしまっていたのであまり痛手ではなかった。

絶版本で廃棄したのは、河出の奇想コレクションの一冊、マーゴ・ラナガン『ブラック・ジュース』だけ。これならまた買い直せばいい。

家財ではプリンタと炊飯器が水没し廃棄。

天井からの漏水にもかかわらず、ここまで被害が少なかったのは運が良かった。それに加えて、床には本を置かないことを徹底していたのが良かったのだろうと思う。

 

今回の漏水には一切責任がなく、帰ったら水浸しだったので非常に精神が疲れた。結局2日間友人宅に身を寄せさせてもらうことになり、連日連夜不動産屋とか生協とか共済に電話をかけ続ける夢を見て、どこに電話をかけたのか、どこから電話がかかって来たのか、それが夢なのか現実なのかわからなくなったということもあった。

いまは同じ建物の中で部屋を借り換えて、生活用品も買い換えて、ほぼ通常の生活が出来るようになった。食べ慣れた長岡の米が食えるのが一番落ち着く。

 

これ以上特に書くことはない。

追記(2020/04/11)
部屋に入った生協の人に、「筒井康隆お好きなんですか」と言われた。筒井康隆のポスターが部屋に貼られてて、筒井康隆全集があって、筒井康隆の本が本棚にみっちり刺さっている部屋を見て、筒井康隆ファンでないわけがなかろう。

本を運び出しながら、生協の人たちが筒井康隆星新一の作品は面白いよね、という話をしているのが聞こえた。われながら、読んでる本が古すぎる。

伴名練「白萩家食卓眺望」について

SFM2020年4月号掲載のこの伴名練の新作について、読み終えてからずっとSFを読むという行為への自戒をし続けている。SFMを取り出して読んでは、ぐるぐると同じことばかりを考えている。

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ブログ開設から2年、SFを游いで

1月の末の時点でブログ開設から2年が経過していたが、そんなことはすっかり忘れてふわふわしていた。

この1年はひどく長く感じられた。いろいろなことがあったからだろうか。

さて、なんとなく書いていこうかと思う。

 

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中国SF研究Ⅱ「『東北大SF研、中国SFを大いに語る』配布資料追記版」

本記事は、2019年10月12日の夕方から翌13日朝にかけて行われた京都SFフェスティバル2019合宿において主催した企画「東北大SF研、中国SFを大いに語る」の配布資料の追記版である。

なお、企画の内容は勝手ながら企画主催者である下村の判断で拡散禁止としたため、内容そのものはその場限りのお楽しみということにさせていただいた。実際の企画内容は本資料に沿ったものではない。当時実際に配布した資料はPDFとして東北大SF研wikiで公開中。

  • 中国SFとは?
  • 中国SF・中華SF・華文SFの定義
  • 科幻四天王
    • 劉慈欣(Liu Cixin, リュウ・ツーシン, りゅう じきん)
    • 王晋康(Wang Jinkang, ワン・ジンカン, おう しんこう)
    • 何夕(He Xi, フー・シー, か ゆう)
    • 韓松(Han Song, ハン・ソン, かん しょう)
  • 韓松「暗室」について
    • 版権取得までの経緯
  • 中国SFの特質
    • 中国SFの最大の特徴:政治性と民族性
    • 中国SFの体現者:韓松
    • 中国SFを超克する中国SF:別格としての劉慈欣、そして陳楸帆
    • 中国SFのオリエンタリズムという先入観:ケン・リュウを通じて中国SFを知ることの危うさ
      • ケン・リュウ、中国SFの紹介者にして改作者
      • 中国SFの特徴を知りながら
  • 中国のネット小説
  • 中国SF界の問題点
    • 編集者の不足
    • 翻訳者の不足
    • 批評家の不足
    • SF市場の小ささ
  • 総括
  • 中国SF・中華SFを知るために
    • 『中国科学幻想文学館』武田雅哉林久之、大修館書店、2001
    • 雑誌『東方』451~453 号、東方書店
    • 研究ノート『中国科幻小説の諸相』
    • 「卜部理玲のSFブックガイド」より「メモ:現在手に入る中国SFリスト」
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