SF游歩道

語ろう、感電するほどのSFを!

読書録抜粋14

学部入学以降付けている読書録からの抜粋その14。すべてノートに万年筆で一発書きなので文章はところどころで破綻しているが、それも当時の味ということで。コメントは現在のもの。

 

2019.6.9 J・G・バラードヴァーミリオン・サンズ』ハヤカワ文庫SF

ようやく見つけた『ヴァーミリオン・サンズ』。一番面白かったのは「コーラルDの雲の彫刻師」。次いで「プリマ・ベラドンナ」「歌う彫刻」「ヴィーナスはほほえむ」「ステラヴィスタの千の夢」といったところか。バラードは美しく、生臭い。変容がバラードの執着。情景描写に全てを語らせるような小説はバラードにある。

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ずっと探していてやっと見つけた『ヴァーミリオン・サンズ』。収録作はもちろん短編全集などで読むことが出来るが、この1冊に集約されているのとはやはり読み味が違ってくる。

「コーラルD」が好きなのは、一番最初に理解出来たバラード作品だから。「プリマ・ベラドンナ」もそうだが、面白かった作品として挙げている作品は軒並み分かりやすい作品ばかり。刷り込みというものは大きなもので、好きな作家の好きな作品には、最初の方に読んだ作品が多い気がする。少し読んで気に入らなければ当然読み進めることがないということでもある。

 

2019.6.16 福島正実ほか『日本SF・幼年期の終り早川書房

読み終わって初めて気づいたが、これですべての月報をカバー出来ているわけではないようだ。すべて網羅しているとばかり思っていたので計算が外れた。とは言え、全般に面白かった。深見弾の、ソ連のSF本を集める裏話を読めたのがよかった。社会主義国相手だと、さぞ集めるのは難しいことだろう。あとは手塚、石森の文章を読めたのもよかった。

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本書は早川書房から刊行された『世界SF全集』の月報を再収録したものではあるが、その全てが収録されているわけではない。世界SF全集は少しずつ集めているのだが、月報が抜け落ちているものもあって個別所有分を含めても網羅出来ておらず残念。

ところで、東北大図書館の蔵書にはSF関係資料が極めて少ない。辛うじてあるのは東北大出身の円城塔瀬名秀明、松崎有理の著作*1に限られ、海外SFはいわゆる主流文学に分類されうる作家(レム、ステープルドン、ピンチョンなど)や(なぜか)ソビエトSF選集の一部を除きほとんど存在しない。

そんな中、世界SF全集だけはなぜか全て収蔵されている。これが収蔵されているのは、中島敦安部公房など、国内主流文学作家の作品が収録されているのも大きいと思うが、全集という形でお堅くまとまっているのが一番大きいだろう。この世界SF全集は、SFを文学として認めさせようとした福島正実の意向を非常に強く反映していると言われており、当時からこの姿勢には反対する意見も少なくなかったようだが、結果として、文学志向を強く押し出したためにお堅い大学図書館への納書を成功させた。評価には様々あるとはいえ、これは福島正実の勝利と言えるだろう。商業的に難しいことではあるが、叢書・全集という形で、図書館に収蔵させて潜在的な読者の養成をすることも地味ながら重要な仕事だと思う。この成果は伴名練の1万字を見れば明らかであり、また小学校の図書館にあった岩崎書店の冒険ファンタジー傑作選でSFに出会った自分自身も、全集の存在によってSFを強く意識したからこそ、強く思う。

 

2019.6.28 マレイ・ラインスターほか『最初の接触』ハヤカワ文庫SF

伊藤典夫翻訳SF傑作選の第2弾。これは宇宙SFが中心だが、表題作「最初の接触」がファーストコンタクトものの原点というだけであり、あとは時代の流れの中で陳腐化していることは否めない。ともかく、「最初の接触」をはじめ、古典的な作品が容易に読めるようになったのはありがたい。ファーストコンタクトものの原点である「最初の接触」がやたら好戦的だったからのちのファーストコンタクトものが平和的だったんだなと、文脈から理解出来たのでよかった。

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劉慈欣『三体』三部作がファーストコンタクトを扱っていて、この作品をきっかけに当時SF研内でファーストコンタクトに関する議論が起こり、ファーストコンタクトの原点をきちんと確認しようということで読んだ本。この本は丁度出たばかりで渡りに船だった。

ラインスター「最初の接触」は異常に好戦的な接触を扱った作品で、のちのファーストコンタクトものはこの結論に対する反論や別解を提示しようとする姿勢が見られる。筒井康隆最悪の接触ワーストコンタクト」は明らかに茶化しにいっているし(これは筒井のパロディ全般が悪意丸出しなので説得力がないのだが)、レム『ソラリス』は知的生命体同士では意思疎通出来ないどころか知覚さえ出来ないと主張し、またエフレーモフ「宇宙翔けるもの」は平和的な接触を提案する。SFの歴史の中でこれだけ幅広い主張があった上で、『三体』が最も原始的なファーストコンタクト像を採ったことが、現代SFとしての『三体』の異様さの原因であり、またその原始性こそが人気の根源であるとも思う。

 

2019.7.14 ルイス・パジェットほか『ボロゴーヴはミムジイ』ハヤカワ文庫SF

古いことは古いが、想像以上に面白かった。一番よかったのはやはり表題作の「ボロゴーヴはミムジイ」。洗練こそされていないがアイデアからして面白い。「若くならない男」もよかった。依拠する説が古びたために作品自体も古びてしまっている作品があるのは『最初の接触』と同じ。アイデアはいいものが多いので、表現のやり方を刷新出来れば普通に今でも通用するというか、やはりティプトリー以前が完全に陳腐化しているというか。

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こちらは伊藤典夫翻訳SF傑作選の第1弾。直前の『最初の接触』から遡っての読書になった。

日本SFについては言わずもがな、海外SFについてもブラッドベリアシモフ、ブラウンから読み始めたタイプの人間なので、古いSFを読んでも苦ではない。とはいえ、元になったアイデアが完全に否定されているタイプの作品を読むのは厳しく感じることもある。相対論・量子論あたりの話を中途半端な理解で書いたものは流石に苦しい。

かつて名作とされていたが、現在では評価されていない作品を読んで、なぜその作品の評価が芳しくなくなってしまったのかを自分なりに分析するようにすると、なかなか得るものは大きいと思う。結局ジャンル小説について何かしら論じたりするにはそれまでの文脈を抑える必要があるわけで、さらに古典は求めなければ読む機会がないことだし、どこかで意識的に体系的に古典を摂取する機会は設けるべきだと思う。他人にこれを強いることは完全に老害ムーブだが、ジャンルに健全性を一定程度求めるのであれば、やらなければならないことだとも思う。

 

2019.7.27 『20世紀ラテンアメリカ短篇選』岩波文庫

結構駄作が混じっている。明らかに別格だったのはオクタビオ・パス青い花束」とガルシア゠マルケス「フォルベス先生の幸福な夏」。他に良かったのがモンテローソ「日蝕」、バルガス゠リョサ「決闘」。4/16が面白ければ上々だろう。マルケスの「フォルベス」の視覚的作用(149頁、「カーテンを開けた。〜」の段落)はあまりに自然な不自然だった。これがマジック・リアリズムか。物語るということに意識的で、面白くて洗練されている。この洗練具合が欲しかった作品は山ほど頭に浮かぶ。

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アンソロジーを1冊読んで、1作でも好きな作品・好きな作家に出会えたのなら、そのアンソロジーを読む価値があったと言える。仮に全部ダメだったとしても、次からその作家を避けられるので、これもまた読む価値があったと言える。すなわち、アンソロジーは読むだけ得ということ。

この本はかなり選者の主観が強いセレクトだが、逆に、収録作については巻末で非常に丁寧に解説されているので、好みの作品を深く知ることはもちろん、合わなかった作品についても、なぜ合わなかったかという理由の一端を知ることが出来たりする。ただ、本書でSFの節に収録されているものには、あまり目を引くようなものがなかったりする。(これには、自分がラテンアメリカ文学にSF的魅力を求めていないというところがあるかもしれない。脅威をそのまま描いてくれればそれでいい)

*1:東北大図書館本館には東北大ゆかりの著者の常設コーナーが存在し、東北大出身者や教官の著作が徹底的に網羅されており、英訳版『SRE』まで収蔵されている。一方で、東北大出身者であれば擬似科学者の擬似科学の著作まで収められているのはちょっとな、と思う。五島勉(東北大法学部出身)のオカルト本とかは見当たらなく、微妙に徹底しきれてないのも不満点。刊行時期の問題かもしれないが、やるならそこまで徹底すべきでは。