学部入学以降付けている読書録からの抜粋その11。すべてノートに万年筆で一発書きなので文章はところどころで破綻しているが、それも当時の味ということで。コメントは現在のもの。
- 2019.1.10 寺尾隆吉『ラテンアメリカ文学入門』中公新書
- 2019.1.16 老舎『猫城記』サンリオSF文庫
- 2019.1.21 J・D・サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』新潮文庫
- 2019.3.19 ミルチャ・エリアーデ『ムントゥリャサ通りで』法政大学出版局
2019.1.10 寺尾隆吉『ラテンアメリカ文学入門』中公新書
新年最初の本。本当はサンリオの『猫城記』を読んでいたのだが、あまりにも苦痛でこっちに乗り換えた。虚構のうちに現実を築き上げるアルゼンチンの知的幻想文学が一番気になる。フリオ・コルタサルの姿勢は円城塔にも繋がるか? 「コルタサル・パス」はコルタサルとオクタビオ・パスか?
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書いてある通り、『猫城記』が苦痛すぎてこっちに逃げて読み切った本。前々からラテンアメリカ文学を体系的に知りたいと思っていたところだったので渡りに船という感じか。
ラテンアメリカ文学、特にマジック・リアリズムの思想や背景をここできちんと確認出来たのは大きかった。こののちにラテンアメリカ文学を集中的に読んでいた期間があり、しばしば読みづらさを感じつつも、ここで得た知識を背景に読み繋ぐことが出来た。
この前後では、SCPをひとつずつ全部読んでいって、当時wikiにまとめられていたものは英語のものを含め全部読んだ。この後も読み進めていって、本家は4000番台まで、JP版も1000番台までは全て読んだ。
2019.1.16 老舎『猫城記』サンリオSF文庫
新年初のSFがこれかと思うと何も言えない。とりあえず、噂に違わず酷い作品だった。解説を読んだものの得られるものはほとんどなく、本当に酷い出来。ネタにはなったのでよしとする。全般的に稚拙な風刺なのだが、それだけに、現代日本をそのまま写し取ったかのような箇所があるのが恐ろしい。138頁あたりの大学教育の話、158頁あたりの学者に関する話がそれにあたる。これらは稚拙でつまらない寓話のはずなのだが、日本の現状にピタリと合う。この部分だけが優れているのではなく、今の日本が稚拙なのだろう。
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表紙が9割、作者が自ら駄作と貶す序文が残り1割、あとはオマケというサンリオSF文庫の中でも伝説的作品。中身は薬物で国中がラリっている猫の国を描いた稚拙な寓話なので、現代日本と一部酷似していることを除けば大した作品ではない。
一応老舎全集として復刊されているのだが、こちらも絶版になってしまい全集の方がサンリオ版より高いので、手に入れるならサンリオ版の方がいいかもしれない。読んでも面白くないので完全なコレクターズアイテム。
2019.1.21 J・D・サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』新潮文庫
生協で偶然目に入って買って読んだ本。サリンジャーはこれまで読んだことがなかった。名の通り短編が9編入った短編集。面白かったのは「バナナフィッシュ」「エズミ」「テディ」。「対エスキモー」、「愛らしき」はよくわからなかった。円城塔「バナナ剝き」と「捧ぐ緑」との比較は当然考えられ、「バナナ剝き」は「バナナフィッシュ」の狂気、「捧ぐ緑」は「エズミ」の再生、「愛らしき」の愛情が共通する。必ずしも全て共通するわけではないが、円城塔作品を考える上で参照すべきなのは確か。
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このころはちょうど期末試験を終えて春休みを迎えようとしている時期で、川内北の生協で不思議に目に留まったことをよく覚えている。
収録作では「テディ」が一番の好み。これはSFファンにも広く読まれて欲しい作品だが、まあ本読みならサリンジャーくらい読んでるだろうしな、ということであまり人には勧めていない。この「テディ」を皮切りに、真冬の部室で炬燵に入りながら、サリンジャー、太宰治、三島由紀夫、川端康成、ボルヘスの話をしたのを覚えている。
2019.3.19 ミルチャ・エリアーデ『ムントゥリャサ通りで』法政大学出版局
読みたかったのはこれだと思った。これを読みたかったし、これを書きたかったのかもしれない。ものすごく面白かった。面白かったというほかない。他に言えるならばもうここに書けているはず。円城塔が好きというのも納得がいく。
この作品について書こうと思うのだが、そうするとこの作品を一言一句写すしか方法がないのではないか。ただ、『ムントゥリャサ』が『ムントゥリャサ』でなければならない理由が見えない。その点、円城塔の方がよく見える。
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この当時、版元品切になって久しい貴重な本だったが、今はなきジュンク堂TR店で(埃をかぶってとても汚かった)新刊を偶然発見し、買って帰って夢中で読んだ。
エリアーデは1907年生、ルーマニア出身の宗教学者・小説家。小説家としては、なんとも言いようのない変な小説を書き、そこらへんが円城塔も好きそうだな、という感じがする。学術的成果は宗教学・民俗学を軸とするが、この作品にはそのような要素はあまり見られない。
この本は、円城塔が学生時代最も好きな本として挙げていた小説。のちに改装版が刊行され、現在は新刊として容易に入手可能。