中国の有名SF月刊誌「科幻世界」の巻末には、同社の販売するSF単行本の通販カタログが2頁分掲載されている。
国内(中国)SFを先頭に、日本、アメリカ、カナダなどの国外翻訳SFが一覧形式で掲載されているため、この頁に登場する作家・作品を確認すれば中国国内で人気のある作品や、「科幻世界」が強く売り込みたいと考えている作家・作品を知ることが出来る。
今回は「科幻世界」2017年9月号の巻末カタログを題材に、掲載されていた作家・作品・価格を出来る限り翻訳・紹介する。(1元=約16円)なお、このリストは基本的に長編作品のみで構成されるため、短篇集などは傑作選を除いてほとんど登場しない。
あくまで今回取り上げる作品・作家は雑誌の限られた紙面で紹介されているものであり、ここにある作品・作家が中国における翻訳SFのすべてではないことに注意してほしい。
世界のSF
「科幻世界」はSF専門の雑誌なので、やはり通信販売のメインはSF作品になる。(同じ出版社で他にもファンタジー、ホラーなども扱っているため、若干区分があいまいな部分もある。)
作家別
【英】アーサー・C・クラーク
『渇きの海』20元
『宇宙のランデヴー』21元
『宇宙のランデヴー2』39元
『宇宙のランデヴー3』38元
『宇宙のランデヴー4』42元
熱い「宇宙のランデヴー」シリーズ推し。『2001年宇宙の旅』や『幼年期の終り』はどこへいったのだろう。やはり神の存在がだめなのだろうか。
『2001年宇宙の旅』は中国語に翻訳されているようだが、科幻世界の通販サイトでは取り扱いがない。18年9月現在、科幻世界の通販サイトで確認出来るクラーク作品は「宇宙のランデヴー」シリーズ以外だと『楽園の泉』のみ。
【日】山田正紀
『エイダ』28元
『宝石泥棒』26元
『神狩り』16元
日本作家では一番の厚遇。特に『神狩り』が注目されており、クリック数が15000を超えている。
【日】小川一水
『時砂の王』16元
なぜかジュヴナイル。長篇ならば「天冥の標」シリーズの方がハードSF好きの多い中国のファン層に受けそうなものだが。あるいは、中国のファン層が非常に若いのかもしれない。中国のSFコンベンションは10代20代の若者が中心だと聞いている。
【日】野尻抱介
『太陽の簒奪者』18元
星雲賞受賞作なので極めて妥当な選択だと思う。尻PもハードSFを得意とする作家なので、中国で人気を得る余地はあると思う。
【日】飛浩隆
『グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ』25元
原文では『廃園天使』としか書いてないので、複数冊分の合本である可能性もある。『グラン・ヴァカンス』単体での出版だということです。(ご指摘いただき修正)
英語圏での評判がいいためか、ばっちり翻訳されている。中国のSFファンも続きが刊行されない苦しみを共に味わっているのだ。
【日】神林長平
「プリズム」20元
中国語の訳題は『棱鏡』、プリズムを意味する熟語。なぜ「戦闘妖精・雪風」シリーズではないのだろうか。「雪風」という名前がまずいのか?
【日】田中光二
『異星の人』21元
読んでいないので何とも言えないが、星でも筒井でもなく田中光二というのは意外。
【日】小松左京
『日本沈没』42元
日本SFを代表するこの作品は早い時期に訳されているようだ。(ほかの日本作品の整理番号が3桁のところ、『日本沈没』が54番となっている)
【米】ロバート・A・ハインライン
『ウロボロス・サークル』38元
『宇宙の呼び声』21元
『メトセラの子ら』34元
『異星の客』32元
まあまあ妥当というところではないだろうか。『宇宙の戦士』『月は無慈悲な夜の女王』はどう間違っても中国本土では発表出来ないだろう。(台湾が先立ってはいるものの、それぞれ03年、04年に翻訳自体はされている模様。中身が確認できていないので、削除等うけているのかに関しては不明)日本ならばまず前面に押し出されるだろう『宇宙の戦士』『月は無慈悲な夜の女王』『夏への扉』が記載されていないということは、中国と日本でのハインライン人気の傾向が異なることを示しているだろう。確認したところでは、ほかに『人形つかい』『愛に時間を』も訳されているようだが、クリック数は3桁に留まっている。
中国での紹介のされ方を見ていると、「SF御三家のひとり」とだけしか紹介されておらず、若干不遇。『夏への扉』も04年になってやっと翻訳出版されたようなので、紹介が進んでいない面があるのかもしれない。ちなみに『ダブル・スター』は83年に既に翻訳されている。
【米】ロイス・マクマスター・ビジョルド
『任務外作戦』32元
『バラヤー内乱』20元
『無限の境界』19元
『天空の遺産』18元
『ミラー衛星衝突』24元
日本とは様子が異なり、クラークと同じ5冊分の紙幅を割いて紹介されている。スぺオペが好きというわけでもなさそうだし、なぜなのだろう。
【米】フランク・ハーバート
『デューン/砂漠の救世主』18元
古典的名作、「デューン」がばっちり訳されている。中国では結構昔のSFも積極的に刊行されているようだ。ちなみに「デューン」はどストレートに「砂丘」というらしい。
【米】ロバート・J・ソウヤー
『ターミナル・エクスペリメント』か? 29元
『Red Planet Blues』(日本未訳)30元
『Calculating God』(日本未訳)28元
『ゴールデン・フリース』〔新版〕26元
『Foreigner』(日本未訳)16元
『Fossil Hunter』(日本未訳)16元
『占星師アフサンの遠見鏡』16元
『ゴールデン・フリース』17元
ここにきてまさかのソウヤー。しかも他の作家に比べて紹介されている量が明らかに多い。邦訳が存在しない作品の翻訳もあることから、中国でソウヤーが人気を集めているのではないかと考えられる。
【米】ナンシー・クレス
『Beggars Ride』(日本未訳)24元
『Beggars and Choosers』(日本未訳)22元
これまた意外のクレス。『ベガーズ・イン・スペイン』からはじまる「無眠人」シリーズが紹介されている。
【米】ジョージ・R・R・マーティン
『フィーヴァードリーム』(SFではなく、ファンタジーに分類されている)26元
『タフの方舟』29元
『星の光、いまは遠く』26元
「氷と炎の歌」シリーズの映像化『ゲーム・オブ・スローンズ』が大人気のマーティン。この頁には「氷と炎の歌」に直接連なる作品が掲載されてはいないが、やはりその話題性に注目しているのではないかと考えられる。
【米】ロジャー・ゼラズニイ
「For a Breath I Tarry」(日本未訳、恐らく作品集)30元
「伝道の書に捧げる薔薇」24元
ここまでくると判断基準が分からなくなってくる。HPの紹介文に「新浪潮」という言葉があることから、ニュー・ウェーヴSFが存在するということは認知されているということだろう。なぜゼラズニイだけなのかはわからないが。
【米】デイヴィッド・ブリン
『ポストマン』32元
『スタータイド・ライジング』46元
『キルン・ピープル』42元
『サンダイバー』30元
「知性化戦争」シリーズを中心とした翻訳。科幻世界HPで販売されている翻訳はこの4冊しかないようだ。日本ではあまり大々的に売り出されることはないように思うが、やはり国が違うと読者の好みも変わるのかもしれない。
【露】ストルガツキー兄弟
『ストーカー』15元
『神様はつらい』18元
『収容所惑星』26元
「火星人第二の来襲-或る常識人の日記」(長篇ではないので作品集か?)18元
中国における翻訳SFで特徴的なのは、ソビエトのSFが多数翻訳されていることだ。流石は共産圏、ということになるのだろうが、ストルガツキー兄弟が新刊で読めるのはうらやましい。ソビエトSFが気になっても、日本ではなかなか手に入らないため、悔しい思いをしている。
【米】ケン・リュウ
「ケン・リュウ傑作選」(単体での販売は品切れ、下の傑作選と2冊組で販売している模様)18元
「ケン・リュウSF傑作選」26元
「ケン・リュウSF傑作選」には、『もののあはれ』『円弧』『選抜宇宙種族の本づくり習性』など13篇が収録されている。本国でも、ケン・リュウの名声とその作品は広く知られているようだ。
【米】ジョー・ホールドマン
『終りなき戦い』〔新版〕25元
『終りなき平和』〔新版〕35元
2作とも新版ということなので、一定の人気はあるのだろう。しかし、これ以外に販売されていないことから、翻訳自体はあまり進んではいないようだ。
【米】パオロ・バチガルピ
『ねじまき少女』39元
『シップブレイカー』20元
『第六ポンプ』26元
バチガルピがアジアを題材にしたSFを得意とするからか、翻訳状況は日本とほとんど変わらない。
【米】グレッグ・ベア
『火星転移』48元
『女王天使』48元
『ブラッド・ミュージック』24元
『久遠』38元
「グレッグ」と読み取れたので、てっきりイーガンかと思っていたらベアの方だった。ハードSFが好まれる中国なら、イーガンもいけそうなものだが。
【米】フィリップ・K・ディック
『ブラッドマネー博士』22元
『タイタンのゲーム・プレーヤー』20元
『死の迷路』20元
『最後から二番目の真実』22元
『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』22元
みんな大好きディック。もちろん中国のSFファンも大好き。『高い城の男』がないのは当然としても、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』や『流れよわが涙、と警官は言った』がここに掲載されていないのが不思議でならない。掲載されているものが結構曲者ぞろいの気がするが、こういう感じのものの方が中国では読まれるのだろうか。
なお、『高い城の男』自体は2014年に翻訳されているようだ。また『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は小説版『ブレードランナー』として知られているようで、小説版『ブレードランナー』の版は2003年、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』として2013年の版を確認した。一方『流れよわが涙、と警官は言った』は2013年、2017年の版を確認した。(中国語版Wikipediaに『流れよわが涙、と警官は言った』の記事が存在しないため、この作品は相当人気がないか、翻訳されてまもないかという状況が想像出来る)
【米】マイク・レズニック
「オルドヴァイ渓谷七景」48元
「キリンヤガ」28元
「オルドヴァイ渓谷七景」も「キリンヤガ」も、探している最中なので非常にうらやましい。選出はかなり堅実なところと言える。過去の名作を新刊で入手できるのは本当にうらやましい。
【米】アーネスト・クライン
『アルマダ』34元
『ゲームウォーズ』29元
今話題のSF作家。日本で紹介されるよりもはるかに前に翻訳されていたようだ。(確証は取れていないが、後輩の中国人留学生の証言によると『ゲームウォーズ』は中国ではとっくに翻訳されていたとのこと。)少なくとも、『アルマダ』が17年の時点で翻訳されていたのは先見的だろう。
作品別
【米】ダニエル・F・ガロイ
『模造世界』20元
映画化もされた作品。私は全く知らなかったが、映画は中国でも人気とのこと。
【米】マイク・レズニック選
「世界SF傑作選」38元
シルヴァーバーグ、ゼラズニイをはじめとして18編が収められたアンソロジー。マイク・レズニック編とのことなので、多分英語圏に基になったアンソロジーがあるはず。
収録作にシルヴァーバーグ『The Asenion Solution』、スワンウィック『Steadfast Castle』を確認。
【フィンランド】ハンヌ・ライアニエミ
『量子怪盗』28元
レンガのような厚さで目を引く、ハヤカワ文庫SF収録の作品。中国語版も相当な厚さだと思われるが、価格はそこまで高くはない。
【米】ヴァーナー・ヴィンジ
『Marooned in Realtime』(日本未訳)30元
ヴィンジの日本では知られていない作品。ヴィンジを読んだことがないのでなんとも言えないが、日本でよく知られている『遠き神々の炎』ではなくこちらを推す理由はなんなのだろう。
【米】アレン・スティール
『土狼星』(日本未訳? 「土狼星」はシリウスを意味する。)32元
まったく情報がない。原文に記載されている人名は、カタカナにおこすと「エレン・スティール」になる。
アとエの中間音で勘違いをしていたようだ。正しくは「アレン・スティール」となる。(ご指摘いただき修正)
【加】ピーター・ワッツ
『ブラインドサイト』28元
星雲賞海外長編部門の受賞作。中国における翻訳作品リストは過去の名作の存在が目立つが、ここ10年くらいの作品がないわけではないようだ。
姚海軍 編/ディック、ブラッドベリ、クラーク、アシモフ他
「経典的真身─映画原作傑作選」(下線部原文ママ)32元
映画の原作になったSF小説の傑作選らしいが、収録されている作品がなんなのかよくわからない。
中国人の編者の手によるものなので、中国でのオリジナルアンソロジーと考えられる。アマゾンで確認したところ、ディック『ゴールデン・マン』『少数報告』(『マイノリティ・リポート』)のほか、ブラッドベリ、クラーク、アシモフの名前が確認できた。かなり豪華なアンソロジーにもかかわらず、価格は日本円にして約500円。日本で売られていたら飛ぶように売れるのではないか。
【米】ポール・アンダースン
『タウ・ゼロ』19元
原文だと、中国将棋の用語を使った凝った訳題になっていて、『タウ・ゼロ』だと気付くまでにかなり時間がかかった。それにしても、昔の作品がよく翻訳されていて面白い。
【仏】セルジュ・ブリュソロ
『Le syndrome du scaphandrier』(仏語原題、直訳が「潜水夫の症候群」になるので、邦訳するならば「潜水病」とかになるか?)16元
これもまったく情報がない。セカンドネームも確定出来なかった。(ご教示いただき修正)
中国語の読みを間違えていたようだ。「シャルル・なんとか」ではなく、正しくは「セルジュ・ブリュソロ」。(言い訳になってしまうが、英語名だとある程度アタリがついても、別の言語になるとどうしても類推が利かなくなってしまう現状がある)
セルジュ・ブリュソロは1951年生まれのフランスのSF作家。アポロ賞*1を1回、フランスSF大賞短編部門を1回、長編部門を2回受賞している。上記の『Le syndrome du scaphandrier』は92年に発表された。
現在、日本にはフランスSFがほとんど紹介されていないように思われるが、たった一作とはいえ、中国ではこのように紙幅を割いて紹介がされている。うらやましい。
【米】ジェイムズ・ブリッシュ
『悪魔の星』18元
『宇宙都市』58元
科幻世界で販売されているブリッシュの作品はこの2作のみ。『宇宙都市』の説明文を読んでいたら随分と面白そうだったので、今度読んでみようかと思う。
【米】ラリイ・ニーヴン
『リング・ワールド』26元
ニーヴンの代表作が紹介されている。しかし、HPを検索してもひっかからないため、現在は取り扱いがないようだ。
【米】マイクル・スワンウィック
『大潮の道』22元
マイクル・スワンウィックの初期の作品。こういう未訳の作品を見ると無性にうらやましくなってくる。『大潮の道』として、邦訳も存在する。(橋本輝幸さんよりご指摘いただき、修正)
【英】ジョン・ウィンダム
『トリフィド時代』16元
中国語の訳題は『三尖樹時代』。名訳だと思う。
【露】ワシリー・ゴロワチェフ(または、ゴロワシェフ)
『妖魔古墓』(日本未訳)22元
ロシア人作家であるということ以外、まったくわからない。日本語で検索をかけても0件なので、この記事が日本で初めて「ワシリー・ゴロワチェフ」に言及する文章になるだろう。
【ポーランド】スタニスワフ・レム、【米】ジーン・ブリュワー(Gene Brewer)?
『ソラリス』『K-PAX』(合本)24元
なぜ合本なのかは謎。『K-PAX』は日本語訳が存在しない。ジーン・ブリュワーという作家に関してもほとんど情報がないが、この『K-PAX』という小説は映画化されており、日本でも2002年に公開された。
【米】ジャック・ウィリアムスン
『エデンの黒い牙』18元
アメリカのSF作家、「ジャック・ウィルソン」という人の作品らしいのだが、検索しても同姓同名のメジャーリーガーの情報しか出てこない。
作者名は「ジャック・ウィリアムスン」が正しい。(橋本輝幸さんよりご指摘いただき、修正)
海外で流行している作品
世界最先端の流行作品という枠組みなのだが、科幻世界独自の基準によるものなので、日本では知られていない作品もある。
作家別
【英】パトリック・ティリ(Tilley)?
『Blood River』(日本未訳)26元
『Iron Master』(日本未訳)35元
『First Family』(日本未訳)30元
日本には紹介されていない作家。この人も日本語による検索にはまったくひっかからないため、この文章が日本で初めて「パトリック・ティリ」に言及する文章になるだろう。
パトリック・ティリは1928年生まれのイギリスのSF作家。グラフィックデザイナーを経て脚本家となり、75年『Fade-Out』で小説家デビュー。現在も存命(18年8月末現在)。
華々しい受賞歴とは無縁のようで、作品リストには無機的に題名と刊行年がつづられている。
以上の情報の出典は下記の「Science Fiction Encycropedia」から。
Authors : Tilley, Patrick : SFE : Science Fiction Encyclopedia
先に挙げられた3作はいずれも80年代の作品なのだが、本当に世界で流行っているのか?作家本人もそうだが、作品自体聞いたことがない。いきなり「流行している」という信憑性が怪しくなってきた。
【米】ディーン・R・クーンツ
『ミスター・マーダー』29元
『ウォッチャーズ』36元
『By the LIght of the Moon』(日本未訳?)24元
『オッド・トーマス』18元
SFからミステリ、ホラー、サスペンスなど幅広いジャンルを手掛けるベストセラー作家、クーンツの作品。まあこれは外国で流行っていると言っても間違いではない。
【米】ジャック・マッキンニー(McKinney)?
『Robotech #1: Genesis』 36元
この人もまた日本には紹介されていない作家。
「ジャック・マッキンニー」はブライアン・C・デイリーとジェイムズ・ルセノの共同ペンネーム。「Robotech」シリーズと「Black Hole Travel Agency」という互いに独立したふたつのSFシリーズを発表している。
以上の情報の出典は下記の「Science Fiction Encycropedia」。
Authors : McKinney, Jack : SFE : Science Fiction Encyclopedia
ちなみにこの作品も80年代の作品。お世辞にも、いま流行の作品とは言い難い。
【英】リチャード・モーガン
『オルタード・カーボン』38元
『ブロークン・エンジェル』42元
『ウォークン・フュリアーズ』58元
やっと流行のSFといえる作品が登場した。『オルタード・カーボン』は「Netflix」の再人気ドラマシリーズの原作。そのためか、シリーズ全3作すべてが翻訳・紹介されている。
【英】ジェレミー・ロビンスン
『プロジェクト・ネメシス』26元
『Project Maigo』(『プロジェクト・ネメシス』の続編、日本未訳)24元
中国語版だとそれぞれ『巨獣』『巨獣×6』と、凄く面白そうなタイトル。話に日本も絡んでくるようなので、気になる。
作品別
【米】マリア・E・シュナイダー
『立方体之戦:突囲』(中国語題)24元
『立方体之戦:反攻』(中国語題)26元
同姓同名の作曲家は検索に引っかかるが、SF作家は引っかからない。その上、HPでの取り扱いも終了しているためどのような本だったのか全く分からない。(橋本輝幸さんからご指摘いただき、修正)
ミドルネームも含めて「マリア・E・シュナイダー」が正しい。(中国語の原文だと、基本的にミドルネームが全て省略されてしまうため、英語に再翻訳するのが非常に難しい)
「立方体の戦い」とはなんだったのだろうか。気になって仕方がない。
【米】テッド・コズマトカ
『基因角斗士』(日本未訳?)30元
作者テッド・コズマトカはアメリカの作家で、短篇がアメリカの年間傑作選に9回収録されるなどしている。作品は10以上の言語に翻訳されており、ネビュラ賞、シオドア・スタージョン記念賞の各候補になり、2010年のアシモフ誌読者賞を共同受賞した。
この人もまた日本語の記事がないので、上記の説明は英語の公式サイトを参考にしている。
Welcome to the Website of Writer Ted Kosmatka - Ted Kosmatka
【米】ジャック・L・ジョーク?
『霊魂之井的午夜』(日本未訳?)32元
まったく謎。ホラーSFっぽいネーミングで非常に気になる。
【米】ジョン・スコルジー
『老人と宇宙』23元
中国語の訳題は『垂暮之戦』。スコルジーでこの題名なので、答えを導くのは一瞬だった。しかしまさかの取り扱い終了。あれだけ昔のSFを売っているのに、スコルジーを容赦なく切るとは。驚き。
【台】凱雲
『銀河新世紀』(全三冊)(日本未訳)57元
台湾から輸入しているので海外枠での紹介なのだが、台湾も中国の一部というスタンスのため(原文では)国名の記載はない。今回色々と調べていて一番笑った箇所だった。
ちなみに『銀河新世紀』はこんな感じの本らしい。
海外の本にありがちな無味乾燥な表紙ではなく、若者向けのイラスト付きの表紙になっている。中身にも期待が高まる。
世界の幻想文学
ここから先はファンタジーに分類される作品の一覧になる。一部SF作家やSFっぽい作品がまぎれているのでこちらも全部紹介する。
作家別
【加】ガイ・ゲイブリエル・ケイ
『A Song for Arbonne』(日本未訳)32元
『The Lions of Al-Rassan』(日本未訳)32元
『Tigana』(日本未訳)42元
作者の名前すら怪しい。色々とつづりを変えて検索しても何もひっかからないので断念した。
作者名は「ガイ・ゲイブリエル・ケイ」が正しい。(橋本輝幸さんよりご指摘いただき、修正)
この作者の作品は3作とも邦訳が存在しなかった。
【英】ニール・ゲイマン
『The Ocean at the End of the Lane』(日本未訳)18元
『アナンシの血脈』21元
今現在、「新ノーベル賞」にノミネートされていることで話題になっているニール・ゲイマンだが、中国でも一定の人気はあるようだ。
【米】ロジャー・ゼラズニイ
『混沌の宮廷』15元
『オベロンの手』17元
『ユニコーンの徴』15元
『アンバーの九王子』17元
またまた登場ゼラズニイ。基本的にゼラズニイは需要があるようなのだが、これは中国特有の現象なのだろうか。自分の身の回りで今ゼラズニイを読んでいます、なんてことは聞いたことがない。
【英】テリー・プラチェット
『女巫復仇記』(日本未訳)38元
『Guards! Guards!』(日本未訳)27元
『Pyramids』(日本未訳)24元
『大法』(日本未訳)22元
『死神学徒』(日本未訳)18元
プラチェットは「ディスクワールド」シリーズが紹介されている。今の日本ではあまり読まれていないように思うが、中国では需要があるようだ。
【米】ピアズ・アンソニー
『ルーグナ城の秘密』22元
『魔王の聖域』22元
『カメレオンの呪文』22元
まったく情報がない。しかし題名を見るに、明らかにファンタジーだろう。
作者名は「ピアズ・アンソニー」が正しい。(橋本輝幸さんよりご指摘いただき、修正)
ピアズ・アンソニーで検索したところ、邦題が判明したのでそちらも修正した。
【豪】ガース・ニクス
『ライラエル』25元
『サブリエル』19元
オーストラリアの作家らしいのだが、読み方が違うのか、まったく情報が出てこない。
作者名は「ガース・ニクス」が正しい。(橋本輝幸さんよりご指摘いただき、修正)
こちらもガース・ニクスで検索したところ、邦題が判明した。
作品別
【米】レイ・ブラッドベリ
『何かが道をやってくる』30元
ブラッドベリはファンタジー枠らしい。ハードSF(中国では「硬科幻」という)を重視する中国SF界ならば、基本的に科学要素の薄いブラッドベリをファンタジーに分類するのもうなずける。それにしてもブラッドベリならもっと有名でよりSFらしい作品があるように思うが、流石に『華氏451度』を全面に押し出すとまずいのだろうか。
ちなみに『何かが道をやってくる』の中国語の訳題は『必有悪人来』。何かがめっちゃやって来そう。
【米】スコット・ホーキンス?
『上帝的図書館』(中国語題)46元
これもまったく情報が出てこない。調べるのは早々と諦めてしまった。
それにしても、「オーヴァーロードの図書館」とは一体どんな物語何だろう。
【米】ジャック・ヴァンス
『終末期の赤い地球』58元
SF作家だとばかり思っていたので意外だった。聞いたことがない作品だったので、確認してみようかとも思う。
【米】ロバート・シルヴァーバーグ
『ヴァレンタイン卿の城』48元
最後に登場するのがシルヴァーバーグ。シルヴァーバーグといいゼラズニイといい、ニュー・ウェーヴの作家たちは中国で需要があるのかもしれない。
オリジナルファンタジー
SFではないが、軽く紹介する。日本からは立原透耶の作品が翻訳紹介されている。
【日】立原透耶
『竜と宙』32元
日本の小説なのに原題が分からないというまさかの現象が発生した。こうしてみると、これまでの小説は中国語題・邦題・原題と3通りのヒントがあったからそこそこ解けていたのかもしれない。(ご教示いただき、修正)
まとめ
クラーク、ハインラインを筆頭に、やはり英語圏のSF作家・作品を主力としていることが分かった。しかし、英語圏とはいえそのほとんどがアメリカの作品ばかりで、イギリス、カナダ、オーストラリアの作品は少なかった。
時代に関してはなかなか幅広く取り扱っているようだが、エリスン、ル=グィンあたりの明らかに中国の国柄に合わない作家は別として、アシモフ、ティプトリー、ディレイニー、バラード、オールディス、イーガン、チャンなど有名どころが全く見当たらないのが不思議。いまや中国でSFを扱う出版社は一社ではないとはいえ、流石に考えにくい偏りのように思われる。
特にディレイニー、バラード、オールディスはゼラズニイ、シルヴァーバーグらのニュー・ウェーヴSFが多く紹介されている中で一冊も紹介されなかった。書いてるものに問題がありそうと言うわけでもないし、その理由が知りたい。
作者・作品名とともに価格もすべて打ち込んだのだが、中国の本の価格が非常にお手頃で驚いた。ヒューゴー賞受賞作『三体』全3冊セットが1500円足らずで手に入ると知って、直接買い付けに行こうかとも思ってしまった。
また、今回の調査では、長編作品を中心に掲載しているという通販頁の特性上、短篇を得意とする作家の作品集(ブラウン、スタージョンなど)に関する調査が行えなかった。次回の調査では、それら短篇作家の作品を含む媒体を題材にとりたい。
重ねて、今回の調査はあくまで「科幻世界」という雑誌の巻末に掲載されている通販頁に登場している作家・作品を対象としており、中国の出版社すべての書籍を網羅しているわけではない。
今回の記事に関して間違いの指摘や更なる情報等あれば、コメントやツイッター(@ss_scifi)で気軽にお知らせください。
付録1:中国におけるソビエトSF(ロシアSF)とのかかわり
中国の多少歴史のある中学・高校の図書室に行くと、ソビエトSFの叢書が一通り揃っていることが多いらしい。その関連で、現在の若いSFファンでもソビエトSF(ロシアSF)に親しみのある人は多いのだという。(先述の中国からの留学生の後輩談。本人も大のSFファンで、特にロシアSFのファン。)
上記のストルガツキー兄弟の作品の充実ぶりは、このことが背景にあるからかもしれない。
付録2:中国のSFファンがSF小説を購入するの際の判断基準
中国のSF書籍通販サイトの特徴として、その商品のクリック数が見られるという点がある(少なくとも、科幻世界のHP内の通販サイトでは確認出来た)。中国のSFファンが小説を購入する際は、小説の個別ページに表示されているクリック数を参考にすることが多いらしい。
劉慈欣の『三体』三冊セットのクリック数は42833回。ほかの作品と比べると飛びぬけて多い。