SF游歩道

語ろう、感電するほどのSFを!

要素マシマシ、カオスだけど意外と予測は当たっているディストピアSF━━『2018年キング・コング・ブルース』(サム・J・ルンドヴァル、サンリオSF文庫)

書籍情報

作者:サム・J・ルンドヴァル

訳者:汀一弘

出版社:サンリオ

形態:長篇小説

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書影:HP「サンリオSF文庫の部屋」さまより引用

解説・感想

サンリオSF文庫紹介の第一弾。作者ルンドヴァルはスウェーデン人。ただでさえキワモノが多いサンリオSF文庫において、2018年(今年)でディストピアキング・コングスウェーデンと、異常にコテコテな作品になっている。

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現代のラノベの原点はすべてここにあった!?━━『時をかける少女』(筒井康隆、角川文庫)

書籍情報

作者:筒井康隆

出版社:KADOKAWA(角川文庫)

形態:短篇小説集

時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)

時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)

 

収録作品

時をかける少女

『悪夢の真相』

『果てしなき多元宇宙』

研究と感想

半世紀以上前に発表されたにもかかわらず、これまでに何度も映像化され、そのたびに人気を博した名作『時をかける少女』。普段SFに全く興味のない人でも、この作品については見聞きしたことがあるのではないだろうか。

なぜこの作品が時代を超えて愛され続けるのだろうか。今回改めて読み直し、大いに楽しんだとともに、色々と新たな発見があったので、研究成果・感想とともに紹介する。

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日本SFの先駆け、時代の香り漂う傑作選━━「火葬国風景」(海野十三、創元推理文庫)

書籍情報

作者:海野十三

編者:日下三蔵

出版社:東京創元社創元推理文庫

形態:短篇小説集

火葬国風景 (創元推理文庫)

火葬国風景 (創元推理文庫)

 

収録作品

『電気風呂の怪死事件』

『階段』

『恐ろしき通夜』

『蝿』

『顔』

『不思議なる空間断層』

『火葬国風景』

『十八時の音楽浴』

『盲光線事件』

『生きている腸』

『三人の双生児』

『「三人の双生児」の故郷に帰る』

感想

日本SFの先駆けとなった作家、海野十三の傑作短篇集。傑作短篇集という通り、非常に面白く読むことが出来た。これらの作品が全て戦前に書かれたものだというのが驚き。物語の端々に時代を感じるが、それでも元々の文体や話の面白さ自体は今でも問題なく通用する部類のものだと思う。特に文体に関しては、時代を全く感じさせない非常に読みやすいものだったので本当に驚いた。自分でも何かものを書くときは参考にしたい。話が少し脱線するが、戦前の文章がこの平成の世でも通用するということは、日本の現代文のもとを築いた夏目漱石がいかに偉大であったかをいうことを示していると思う。

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映画『君の名は。』の過小評価について

2016年夏に公開され、まさに社会現象とも言える一大ムーヴメントを巻き起こし、日本国内で250億円以上、国外で3.5億ドル以上の興行収入を得た映画『君の名は。』。興行成績が示す通り、国内外で高い評価を受けており、2018年の正月に地上波で初放送された際も、ネット中がお祭り騒ぎになるほどの人気ぶりであった。

この作品の成功は、『秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』などで既に一定の評価を得ていた新海誠監督の評価をさらに高めた。

私はこの作品が一定の評価を受けていることを十分に理解しているつもりであるし、確かに『君の名は。』に多少の難点があることは認めている。そのうえで、私は『君の名は。』が未だに過小評価されていると感じている。

この作品は、現在の評価よりもさらに高く評価されるべき作品なのである。

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<文豪>筒井康隆の原点は全て初期作品にある━━「日本SF傑作選1 筒井康隆」(筒井康隆、ハヤカワ文庫JA)

書籍情報

作者:筒井康隆

編者:日下三蔵

出版社:早川書房ハヤカワ文庫JA

形態:短篇小説集

収録作品

『お紺昇天』

東海道戦争』

『マグロマル』

『カメロイド文部省』

『トラブル』

『火星のツァラトゥストラ

『最高級有機質肥料』

ベトナム観光公社』

アルファルファ作戦』

『近所迷惑』

『腸はどこへいった』

『人口九千九百億』

『わがよき狼』

『フル・ネルソン』

『たぬきの方程式』

『ビタミン』

『郵性省』

『おれに関する噂』

『デマ』

『佇むひと』

『バブリング創世記』

『蟹甲癬』

『こぶ天才』

『顔面崩壊』

『最悪の接触』

感想

日本SF傑作選の第一弾ということで、日本SF御三家が一人筒井康隆の初期SF傑作選である。日本SF傑作選の第一弾には当然日本SF御三家筆頭の星新一が来るべきではあるのだが、新潮社との独占契約のため、他社で新規の文庫版短篇集が出版できないのでこうなっているという。日本SF傑作選の星新一の巻の代わりとして、自選初期傑作選である新潮文庫の「ボッコちゃん」と「ようこそ地球さん」をおすすめする。

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日本SF界の爆心地・草野原々の驚異の処女作品集━━「最後にして最初のアイドル」(草野原々、ハヤカワ文庫JA)

書誌情報

作者:草野原々

出版社:早川書房ハヤカワ文庫JA

形態:中短編小説集

最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

 

収録作品

『最後にして最初のアイドル』

『エヴォリューションがーるず』

『暗黒声優』

感想

日本SF界の爆心地・草野原々の第一作品集。表題作『最後にして最初のアイドル』で2016年の第4回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞しデビュー。基本的にやべえとしか言えない作風で、伊藤計劃以後の封鎖された日本SF界に彗星のごとく現れ、話題をかっさらっていった。原々には直接会って話したことがあるのだが、もうやべえやつとしか言いようがなかった。この件に関しては、後々別のところで話をしようと思う。

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80’s愛にあふれた、現実と地続きのVR空間で繰り広げられる魅惑の宝探し━━『ゲームウォーズ』(アーネスト・クライン/池田真紀子、SB文庫)

書籍情報

作者:アーネスト・クライン

訳者:池田真紀

出版社:SBクリエイティブ(SB文庫)

形態:長編小説

 

感想

ギークの、ギークによる、ギークのためのお話。80's愛にあふれた小説で、ちゃんとエンタメしつつ、作中のヴァーチャルゲーム空間であるOASISを含んだサイバーパンクな光景や、主人公ウェイドの暮らすトレーラー・パークの九龍城めいた光景がでてきて非常に面白かった。

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SF的手法を用いて描き出される「生」━━『わたしを離さないで』(カズオ・イシグロ/土屋政雄、ハヤカワepi文庫)

書誌情報

作者:カズオ・イシグロ

訳者:土屋政雄

出版社:早川書房(ハヤカワepi文庫)

形態:長篇小説

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 

感想・考察

今年のノーベル文学賞カズオ・イシグロが受賞したということで、いい機会なのでよくSFとして言及されるこの作品を読んでみた。SF専業ではない作家が書いたSFということで、一般的なSFとは少し毛色の異なる、情緒的な物語だった。

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現実と虚構の交錯、アイデンティティの崩壊━━『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(フィリップ・K・ディック/浅倉久志、ハヤカワ文庫SF)

書誌情報

作者:フィリップ・K・ディック

訳者:浅倉久志

出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF)

形態:長編小説

感想

SF研の部会で取り扱うことになり、今回改めて読んでみた。確か中学か高校の頃に一度読んだはずである。初めのうちは楽しく読んでいたものの、途中から話の流れを理解出来なくなって、非常に苦労しながら読んでいた記憶がある。色々とSFについて知恵をつけてから改めて読み直してみると、面白いと感じることが出来た。第三次世界大戦の後の荒廃した世界、人間とアンドロイドが限りなく近づいた世界、そして自己存在の希薄化。ディック感覚がプロットに発生しているのではなく、物語のテーマの根幹となっているために、プロットの崩壊がなくディック作品の中では比較的読みやすい部類には入ると思う。ただ、唐突に現実世界に幻覚のヴィジョンが現れたり、虚構存在であるはずのマーサーが実体を伴って現れたりと、意味不明な部分もある。

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自分の立ち位置を見失う快感━━「トータル・リコール」(フィリップ・K・ディック、ハヤカワ文庫SF)

書誌情報

作者:フィリップ・K・ディック

訳者:深町眞理子浅倉久志大森望

編者:大森望

出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF)

形態:短編小説集

収録作品

トータル・リコール』(旧題『追憶売ります』)

『出口はどこかへの入り口』

地球防衛軍

『訪問者』

『世界をわが手に』

『ミスター・スペースシップ』

『非O』

『フード・メーカー』

『吊るされたよそ者』

マイノリティ・リポート』(旧題『少数報告』)

感想

表題作である『トータル・リコール』と『マイノリティ・リポート』は有名な作品だけあって、収録作では随一の出来。

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