SF游歩道

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図書館に関する本など

最近読んだ図書館に関する本について。

 

リチャード・ルービン『図書館情報学概論』

2014年刊、東京大学出版会

まあいわゆる概説書で、図書館に関連することがよく網羅されている本。そして思ったよりも情報学方面の記述が充実している。下手に技術の詳細を書かず、達成すべき目的に絞って書かれているので、時間が経ってもある程度通用するだろう。あえて欠点を上げるとしたら、アメリカにおける図書館事情や図書館員教育史に結構な分量が割かれていることか。これは米国図書館事情を知れるという点ではメリットでもあり、アメリカ人の書いた本を訳しているのだから当然だという話でもある。

出版社から察せられる通り、専門書なので値段は高いものの、一冊で図書館情報学の要点を総覧出来るのは大きい。研究成果を自分で公開している身として、利用者に配慮したシステムを考えるときに置いておきたいと思える一冊。

 

菅谷明子『未来をつくる図書館』

2003年刊、岩波新書

内容は、当時直近のニューヨーク公立図書館の機能と効果の報告が中心。科学産業ビジネス図書館が起業者や中小企業経営者も含めてビジネス向けに商用データベースを無償で提供していたり、地域の各図書館が医療情報を積極的に発信していたりと、当時劇的に利用が広まっていたインターネットを用いたサービスを大々的に提供していたというのが面白かった。図書館員が“利用者”ではなく“顧客”と呼んでいたり、市民への手厚いサービスが巡り巡って公益に繋がり経費削減になるという考えなど、端々からアメリカ的な実用主義が垣間見え、アメリカと日本とで図書館像が大きく異なることがわかる。

一方、情報方面ではやはり20年という時間の経過は大きく、すぐさま参考にはならないだろう。ただ、9.11当時に公共図書館が臨時にサイトを立ち上げて保安情報を発信したり、異文化理解のためのワークショップや精神衛生のためのセラピーや相談所を設けたりと、有事の際にメディアとしてどのように活動したかということは参考になる。日本とアメリカで公的な図書館の捉え方や運営母体が異なることを考慮しなければならないが。

 

藤野幸雄『アメリカ議会図書館

1998年刊、中公新書

世界最大の図書館、アメリカ議会図書館の歴史を、歴代館長に注目して説明した一冊。アメリカ政治の最初期から、その混乱に巻き込まれつつ規模を拡大して行く様を書き、非常に面白い。

その時々の議会図書館の姿勢の由来をすべて当時の館長に求める向きには議論の余地があるが、面白い試みと言える。良くも悪くも館長次第になる組織として描かれる議会図書館は、高度な公共性を持つ国立機関の記述方法として非常に新鮮に思われた。一人一人の館長の任期がやたらと長いのも含めて、日本とアメリカの姿勢の違いが窺える。

あと、98年刊行ということもあり、インターネットの普及で岐路に立たされている最中の議会図書館の姿勢を述べた部分もあり、面白い。ここで挙げられた課題を、どこの図書館もまだ解決し切れてはいないし、また新しい問題が生まれてきている気もする。

 

モスタファ・エル=アバディ『古代アレクサンドリア図書館』

1991年刊、中公新書

失われた古代アレクサンドリアの大図書館について、その全貌を様々な文献を繋ぎ合わせて記述しようという本。当時の賢人達が大図書館については自分が語るべきではないとして記述を遠慮した結果、大図書館を直接記述した文献が一つも残っていないという小説みたいな話が面白い。

大図書館に関する文献が残ってない以上、本書の内容は創設の歴史的背景や同時代の学問に対する貢献に関する記述が多い。ひとつ気になったのは、ギリシア人・ローマ人の一部に英語読みで書かれている人(シーザー、ユークリッド)が混在しているところ。それ以外では特に不満点はない。