SF游歩道

語ろう、感電するほどのSFを!

読書録抜粋5

学部入学以降付けている読書録からの抜粋その5。すべてノートに万年筆で一発書きなので文章はところどころで破綻しているが、それも当時の味ということで。コメントは現在のもの。

 

2017.8.25 『夏色の想像力』草原SF文庫

SF大会に参加するため、静岡に移動する間に読んだ。大森望が序文で「営業妨害」と言っているように、質量ともに明らかに同人誌の域を超えている。一番面白かったのは山田正紀の「お悔やみなされますな晴姫様、と竹拓衆は言った」。一番読みやすくて、備中高松城攻めのくだりも知っていたので面白く読めたのかと思う。他には円城塔「つじつま」、酉島伝法「金星の蟲」。堀晃「再生」もいい。三島浩司「焼きつける夏を」もベタで甘くていい。結構な大部だったが、量を気にすることなく楽しみながら読むことが出来て良かった。そしてSF大会の前に読み切ることが出来て良かった。

コメント

2017年の静岡のドンブラコンLLに参加するための18きっぷ旅行の途中で読んだ同人誌。道中があまりにも長すぎ、尻と腰に深刻なダメージを負いながら読み切ったもの。長期休暇の度、帰省の道中で本を読もうと思って大量に持ち込むものの、結局読書が捗ったというような記憶はない。

内容は非常に豪華で、創元SFパロディのカバー含め、非常にクオリティが高い。文庫版同人誌をいつか出したいなと思ったきっかけのひとつ。

この前後ではネット小説をかなり読んでいたようで、とんでもないことを書き散らしている。暇だったらしい。あと筒井康隆を死ぬほど読んでいる。よほど暇だったらしい。さらに、某長寿シリーズに手を出し7巻で力尽きている。やはり暇だったらしい。

 

2017.9.5 キース・ロバーツ『パヴァーヌサンリオSF文庫

エリザベス1世の暗殺によって、宗教改革がなされず、カトリック教会が強権の下で科学技術を抑え込んでいる世界を描いた歴史改変SF。歴史改変SFといえば、大きく変わった世界そのものを描くことに主眼がおかれている事が多いが、この作品は市井の人々の暮らしや、生活の中で使われている前時代的ガジェットの描写に力が入れられている。一般の人々の生活を描く中で、教会に対する不満の高まりだとか、階級からの脱却を匂わせる手法が良かった。徹底的に「もうひとつのイギリス」を描き、あり得たかもしれないイギリスやヨーロッパを示唆する本作は、他の歴史改変SFには見られない、独特な雰囲気を持つ作品となっている。ここで、パヴァーヌとは、16世紀のヨーロッパに普及した行列舞踏で、おそらくスペインの影響を受けたものだという。パヴァーヌという言葉自体はフランス語、このパヴァーヌという題は、スペインに占領されたイギリス、16世紀で停滞した科学、そしてストレンジ家の人々や何人ものジョン、そして(ネタバレのため伏字)の織りなす物語の題として、まさにふさわしいものだと思う。文の量は多く、そして翻訳がふわふわしているのか度々文意が不明瞭だが、面白く読むことが出来た。

コメント

珍しくネタバレしているので一部伏字。『パヴァーヌ』は歴史改変ものでは最上位に好き。レールなし汽車とか腕木通信とか、この本で初めて知った技術が多く引き込まれた。特に、アナログな腕木通信で双方向通信が可能というのには驚かされた。

元はサンリオSF文庫の作品だが、現在はちくま文庫で復刊されている。文庫本でも古いものはどんどん絶版に追い込まれているので、お早めに。

 

2017.9.19 H・G・ウェルズ宇宙戦争』創元SF文庫

言わずと知れた、SF古典中の古典。タコの火星人というステレオタイプの元。1898年発表ということなので、100年以上前の作品。普通の大砲で火星人があっけなく死んだり、そもそも細菌に暴露しただけで火星人が全滅したりと、そこら辺はお粗末だが、当時の技術水準や情報へのアクセスの難易度を考えれば全体的にはスリルに富んだ名作と言っていいと思う。世界中で、この作品が原因のパニックが起こったというのも納得。火星人が触手を伸ばして建物の中を探ってきた時の恐怖描写など、小説としての技量は想像以上にあって、これが意外だった。これだけ古い作品であっても、練りに練られた名作は時代を超えていける。

コメント

この夏休みはSF古典強化月間だったらしく、レム『ソラリス』、クラーク『2001年宇宙の旅』『幼年期の終り』、ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』、カヴァン『氷』、エリスン世界の中心で愛を叫んだけもの』、安倍公房『第四間氷期』など大物を再読未読問わず読みまくっていたらしい。流石に恥ずかしいのでこれらの読書録は抜粋しない。

その古典強化月間の大トリが『宇宙戦争』。話はまあ陳腐化しているが、書いてあるとおり描写は垢抜けていて、ダメな古いSFにありがちな冗長さはあまりない。これが当時のイギリスで人気だった理由かもしれない。