SF游歩道

語ろう、感電するほどのSFを!

いちSFファンによるVRchat体験記

先日後輩宅でVRChatを体験してきた。ものすごく面白かった。

言葉を失っている。

かつてSFが描いた世界が、目の前にあった。VRChatを体験していたその間、私は、まぎれもなくSFだった。

あまりの衝撃に、ずっと整理できないでいる。この体験記を読む方は、この記事が整理されていないものであることに注意してほしい。

 

とりあえず、私の体験を写真とともに記録していこうと思う。(VRChat内にカメラ機能があるのだが、不慣れで下手糞なためモニタを直接写真に撮るという荒業で撮影した。そのためが質が非常に悪い点に関してはご容赦ください)

 

私がVRChatを体験したのは平日の15時ごろ。当然日本人はワールドにおらず、参加者はほとんど夜更かししているであろうアメリカのオタクだった。

一応VR体験はあったのでVR自体にはさほど驚かなかったが、それにしても、ゲームのような空間の中に私が立っているというのは面白いものだった。しかし、ここはVRChat、これまでのように空間内に自分しかいないというものではなかった。

周囲には、英語でコミュニケーションを交わすアメリカ人オタクが10人以上はいた。聞こえてくる声は全て男声だが、見える姿はほとんどがかわいい女の子のアバターである。

f:id:Shiyuu:20190317213104j:plain

写真1:"kawaii"文化交流

上の写真の彼女(彼?)とは、kawaiiムーヴで謎のコミュニケーションを行うことが出来た。手を振ると、きちんと手を振り返してくれた(かわいい)。しかも表情の変化も手動で行っていたので、なかなかの手練れであろうと推測される。

f:id:Shiyuu:20190317213107j:plain

写真2:インターナショナルバーチャル百合ムーヴ

私はプライバシー保護のためマイクを切っていたので結果として非言語コミュニケーションを行うことになったが、海を隔てているとはいえ、こんなところにいるものはみな同類である。写真1の彼女と出会ってすぐ、バーチャル頭なでなでを体験することになった。(写真2)

写真では非常に分かりづらいが、写真2の状況で、私本人の鼻先に彼の顔があった。VRChatはルームスケールVRなので、まさに実際に自分が他人のかわいいアバターと交流しているのと変わらない現実を体験することが出来る。

このような距離のことを「ガチ恋距離」といい、これこそがVRChatの醍醐味のひとつである。かわいいアバターと、実際に触れあえるのである。

おそらく当時その場所にいた日本人は私だけだったが、会う人はみな"kawaii"ムーヴ体得者であった。間違いなく、ネットの海を隔てて目の前にいるのはアメリカのオタク(しかも多分おっさん)である。しかし、目の前に見えるのは、写真1にあるように、笑顔で手を振り返してくれるかわいい女の子である(かわいい)。

これが現実に存在するのだ。SFの中でしかありえなかったような状況が、SFの想像力をはるかに凌駕した形で、いま私の目の前にあるのだった。この経験は、言葉では言えない。あなたが、あなた自身でもって体験しないと分からないであろう。(じゃあなんでお前はこんな文章を書いているんだ、ということになってしまうが)

 

名前も外見も知らない外人と"kawaii"を共有し、"kawaii"をともに作り上げる。「ちびのトースター」(おっさん)がバーチャル空間を平行移動で疾走し(写真撮影失敗)、バーチャル美少女(おっさん)とオタクトークし、美少女であるところの私(日本の大学生)に「きみかわいいね!」「しゃべれないの? お話ししようよ!」と英語で話しかけてくる。(外人にかわいいと言われたのは人生初でした)

美少女(写真1、2の彼女。おっさん)が虚空から刀を取り出し、「Show my SWORD!! Ninja Sword!!!! BOOOOM! BOOOOM!」と刀を見せびらかして振り回し、それを周りの美少女(おっさん)が羨ましそうに見ながらオタクトークをする。

小さい幼女(おっさん)が走ってきて、お花を渡してくれる。(写真3)

f:id:Shiyuu:20190317213039j:plain

写真3:花をくれた女の子(おっさん)

目の前に走ってきて、頭をなでてくれとせがむ幼女(おっさん)をなでる私。(写真4)

f:id:Shiyuu:20190317213035j:plain

写真4:頭をなでて国際交流

これらが、現実として、私の目の前にあった。たった15分ほどの出来事だった。これまで楽しんできたSFが、フィクションに過ぎないのだと体感した15分だった。

マトリックス」、「ブレードランナー」、「接続された女」、「ニューロマンサー」、「攻殻機動隊」、「レディ・プレイヤー1」、これらは素晴らしいフィクションだった。しかし、フィクションに過ぎなかった。それを私は体験したのだった。

 

 

 

Vtuber」、「バ美肉」、「VRChat」とSFらしい話題には最近事欠かないが、本当に、それらを実際に体験してそのSF性を論じた人間がいただろうか。SFに関わる人間できちんとこれらに言及している人間を、私はまだ見ていない。

それはそのはず、語るべき言葉を失うはずだからだ。私たちの体験していたSFは、虚構に過ぎなかったのだと、VRChatは目の前に、否定できない現実として突き付けてくるからだ。

 

フィクションの敗北を語る私に対して、「お前の文章表現が悪いのだろう」という反論を行うことは出来る。

しかし、私が感じているのは、構造としてのフィクションの敗北である。

私のVR体験は、現実である。それに対し、私のVR体験記は、フィクションである。そして従来のSFもまた、フィクションである。

現実は誰かの目を通した瞬間にフィクションになる。SFがフィクションである限り、現実としてのVR体験には勝てない。それを現実で私は実感してしまった。

 

おそらく、SFに深く携わる者ほど、この衝撃は大きいのだろうと思う。私の言いたいことは、とにかくVRChatを体験してほしいということである。言葉では語りつくせない。言葉で語れる感覚というものを、原理的に超越している。

とにかく誰かに体験してほしい。参入障壁は高いが、それだけに、いまは純粋な拡張された現実という現実を楽しむことが出来る。たのむから、はやく、VRChatに触れてほしい。