SF游歩道

語ろう、感電するほどのSFを!

SFが読みたいという初心者に薦めるための作品リスト

前回紹介した「SFが読みたいという初心者に薦めるための星新一作品3ステップ」を適切に行えば、かなりの確率でSFに対して興味をもってもらえることだろう。

しかし、せっかく興味をもってもらえても、次に薦めるSFが円城塔や酉島伝法であったら、これまたげっそりさせてしまうことだろう。

そこで、「星新一作品3ステップ」の次に薦めるSFを私の実体験に基づきリストアップしたので、ぜひ参考にしていただけるとありがたい。

あくまでこのリストは「SF初心者にSFファンが作品を薦めるための参考作リスト」なので、悪しからず。

1.『あなたの人生の物語』(テッド・チャン、ハヤカワ文庫SF) 

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

 

薦めるにあたって、一番重要な要素が「面白さ」、二番目が「読みやすさ」、三番目が「手に入れやすさ」。

これらをすべて満たす名作中の名作、それが「あなたの人生の物語」だ。(諸説あります)最近映画化もされた作品なので、知名度が高いのも安心。(完全に映画ポスターの「ばかうけ」効果だが)

これからSFを読もうという人は有名どころをまず押さえよう、という人が多いので、「現代SFの最高峰の傑作だよ」と言いながら薦めると非常に食いつきがいい。読み終わった後、ひとしきり内容の話をしたら、文章自体の「しかけ」についても話すと、「もう一度読み直したい」という声もあった。

「あんな説明もなしに特殊設定をぶっこむ作品なんか読めるのか?」と思う人もいるだろうが、最近の若い人は割とそういう耐性はあるように感じるので大丈夫だと思う。事実、東北大SF研の部員でもこの作品の読書会から入部した人もいるし、その人もそれまであまり本を読んでいなかったものの、私含め上級生と作品について話す間に理解を深めて楽しんだということなので、周りに分かっている人がいれば問題ないだろう。(若い人たちは、本を読みなれていなくても、ゲームや映画などで特殊な設定に対する耐性がついているように思われる。何よりそれが『虐殺器官』が人気を得た理由だとも思っている)

また、SFに興味がある初心者は、ほとんどの場合「SFとは理系の知識を活かした作品だ」と考えている人ばかりなので、理系要素と文系要素が互いに絡み合う『あなたの人生の物語』を薦めると驚く人が多い。そういう点でもおすすめの作品だ。

とりあえず、チャンから現代SFを読み始められるひとは、非常に幸せだろうなと思う。

この作品を薦めたならば、次は中華SF繋がりでケン・リュウの「良い狩りを」(ハヤカワ文庫SF『もののあはれ』)や、人文科学SF繋がりでル=グィンの「オメラスから歩み去る人々」(ハヤカワ文庫SF『風の十二方位』収録)を薦めるといいだろう。いまなら、そのまま第二短篇集『息吹』につなげるのがベストかもしれない。

 

2.『たったひとつの冴えたやりかた』(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア、ハヤカワ文庫SF) 

これも中篇なので人に薦めやすく、一見ジュヴナイル的な物語なので読みやすくもある。

面白さもさることながら、「『もっとも男らしい』とよばれた女性SF作家」ということを話すと、面白いほど食いつきがいい。やはりインパクトで勝負すると、ティプトリーの「男らしい」エピソードも含めて面白がってくれる人が多い。

興味深いことに、ティプトリーに関して情報を伏したまま読んでもらって感想を聞いても、「(気持ちの)割り切りがすごい」とか、「覚悟がすごい」といった「男らしい」という旨の感想を貰うことが出来た。ティプトリーの描いた男らしい態度は、40年近く経っても変わらない形で受け取られている。

この作品を薦めたならば、同様のテーマを扱ったトム・ゴドウィン「冷たい方程式」(ハヤカワ文庫SF『冷たい方程式』収録)を薦めるといいだろう。「たった一作でSF史に名を残した、短篇SFの金字塔」と紹介すると、短篇ということもありその場で読んでくれる人が多かった。ティプトリーとゴドウィン、同様のテーマを扱うことで浮かび上がるふたりの相違点を比較するのも面白い。

 

3.『しあわせの理由』(グレッグ・イーガン、ハヤカワ文庫SF) 

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

 

「ゴリゴリの理系SFが読みたい!」というひとにはぜひイーガンを。とはいえ、最初に『万物理論』『ディアスポラ』は現実的ではないので、オールタイム・ベストにも選出された名作かつ、イーガン入門作とされる「しあわせの理由」を薦めるのがいいだろう。

イーガンの初期作品であるため、科学要素はありつつも、そこから繋がる哲学的洞察がなによりの魅力。チャンと同様、理系と文系の融合的なSFとして読めるのも、薦める理由になる。

この作品で入門を果たしたら、物理法則・物理定数が全く異なる世界を描いたイーガンの「直交三部作」(『クロックワーク・ロケット』『エターナル・フレイム』『アロウズ・オブ・タイム』)がおすすめ。理系の人ならば、拒むどころか夢中になってくれることだろう。

 

4.『われはロボット』(アイザック・アシモフ、ハヤカワ文庫SF) 

われはロボット 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)

われはロボット 〔決定版〕 (ハヤカワ文庫 SF)

 

SFミステリでしかも短篇集なので、読みやすくて面白いと評判がいい。当会がSF・推理小説研究会なので、どちらの読者層にも刺さるというのも大きい。

元々ミステリを読むひとならば、この作品で間違いないだろう。

手塚治虫の『火の鳥』の「復活編」を読んだことがある人ならば、本短篇集収録の「ロビイ」を読んでもらうといいと思う。明らかに「復活編」の元ネタなので、そこから「生命編」はシェクリイの「危険の報酬」だとか、そういう方面に話を伸ばせるだろう。

この作品集を薦めたならば、上述のシェクリイ「危険の報酬」(ハヤカワ文庫SF『SFマガジン700【海外篇】』収録)や、ミステリ繋がりでアシモフ鋼鉄都市』や、法月綸太郎「ノックス・マシン」を薦めるといいだろう。(法月綸太郎を挙げたのは、若いミステリファンが新本格ファンである可能性が高いことを考慮したため)

 

5.『歌おう、感電するほどの喜びを!』(レイ・ブラッドベリ、ハヤカワ文庫SF) 

若干人を選ぶものの、名作SFを数作読んで、ある程度慣れたところに変化球として放ってやると非常に反応がいい。

「抒情的な作品」と言わなくても、「SFっぽくない、詩みたい」という反応が返ってきたこともある。流石ブラッドベリ

この本自体がブラッドベリの様々な側面を写しとった短篇集なので、「歌おう、感電するほどの喜びを!」のあとは一冊読み通してもらうのもいいかもしれない。そのままブラッドベリの作品を突き進むのが常道だと思うが、あえてブラッドベリから離れるならば、ディックの「世界をわが手に」(ハヤカワ文庫SF『トータル・リコール』収録)がおすすめ。個人的に、「世界をわが手に」はディックの短篇のなかでもっとも美しい作品だと思っている。

 

6.『戦闘妖精・雪風<改>』(神林長平ハヤカワ文庫JA) 

戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

戦闘妖精・雪風<改>(ハヤカワ文庫JA)

 

伊藤計劃の作品、特に『虐殺器官』が好きならばこの作品も確実にいける。

発表当時は「よくわからない」と言われたらしい神林作品だが、わたしも含めて今の若い世代にはジャストフィットしているように感じられる。計劃好きに読んでもらって外れたことはない。長篇ではあるものの、自信をもって薦める一冊。

この作品を薦めたならば、順当に「戦闘妖精・雪風」シリーズに進んでもらって、「いま集合的無意識を、」を読んでもらうといいのではないか。(自分が通った道)他には、ミリタリSF繋がりでハインライン『宇宙の戦士』やカード『エンダーのゲーム』を薦める方法もある。

 

7.『たんぽぽ娘』(ロバート・F・ヤング河出文庫) 

流石は恋愛SFの金字塔、大変ウケがいい。

恋愛ものでタイムスリップなので、時間SFに慣れていることが多いだろう若いファンなら自然に読み切ってしまうことだろう。

この作品を薦めたならば、月並みではあるが、筒井康隆時をかける少女』を薦めるのがいいだろう。聞いたことはあるものの、自裁に読んだことがあるという人は意外に少ない。(そしてウケがいい)

 

8.『残像に口紅を』(筒井康隆、中公文庫) 

残像に口紅を (中公文庫)

残像に口紅を (中公文庫)

 

カズレーザーの紹介もあってかなり知名度が高い上、一般には認知されていないだろうジャンル・言語SFということもあり、話題に出すと高い確率で興味深く話を聞いてくれる。

言葉がどんどん減っていく中でどのように物語を組み立てるのか、筒井康隆の天才性が光る一作。手に入れやすいので、薦める際も安心。

言語SFで攻めるならば円城塔Self-Reference ENGINE』や酉島伝法『皆勤の徒』などを薦めてもいいのかもしれないが、かなり人による部分が大きいと思う。

 

9.『にぎやかな未来』(筒井康隆、角川文庫) 

にぎやかな未来 (角川文庫)

にぎやかな未来 (角川文庫)

 

同名のショート・ショート集収録の作品。50年前のSFが、見事に現代日本を描き切っているということで、紹介すると非常に食いつきがいい。(個人的に筒井康隆を布教しまくっているので、そういった面でも非常に都合がいいのもある)

面白さもさることながら、やはりショート・ショートなのでその場で読んでもらって反応が見れるのがいい。感想を話しながら、次に薦める作品を考えることも出来る。

この作品を薦めたならば、50年前に書かれた、現代でも通用する諷刺SFとして、同じく筒井康隆の「マグロマル」「東海道戦争」「おれに関する噂」(ハヤカワ文庫JA『日本SF傑作選1 筒井康隆』などに収録)や、本作『にぎやかな未来』収録の「幸福ですか?」「亭主調理法」「わかれ」など筒井ショート・ショートの良作を次に薦めるといいだろう。無論、日本SF御三家の最後のひとり、小松左京の作品に繋げてもいいと思う。

 

10.『ソラリス』(スタニスワフ・レム、ハヤカワ文庫SF) 

長篇ではあるものの、理系大学生(特に理学部)には大変好評。

「最終的に科学・哲学・神学を横断する議論へと発展していく物語だ」と紹介すると、興味を示さない人はいない。議論に重点を置いた作品ながらも、物語の滑り出しはサスペンス的で読みやすいので人に薦めやすい。

ソラリス』の議論を楽しめるならば、イーガン『万物理論』やディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』など、哲学的な議論が展開される作品・難解な作品も楽しめることだろう。(正直、『ソラリス』を楽しめるのならば、ほとんどのSFを楽しめるのではないだろうか)

 

 

この記事がSFを普及させるうえで少しでも助けになれば幸いだ。この記事は「SFが読みたいという初心者に薦めるための星新一3ステップ」という記事の補足版なので、読んでいない方はまずはそちらから。
shiyuu-sf.hatenablog.com

このリスト上のSFをあらかた読み終えた、もしくは読みたいSFの傾向が分かった場合は、その初心者の傾向から次のSFを進めていけばいいだろう。