SF游歩道

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SFが読みたいという初心者に薦めるための星新一作品3ステップ

SFが読みたいという初心者に、適切に作品を紹介するのは中々難しい。

そこで本が嫌いな人でも読める星新一の作品を使って、適切に各種SF作品への道筋をつける方法を考案したので、ぜひ参考にしていただきたい。

今回紹介する方法は、タイトルにもあった通り、星新一作品6作を3ステップに分けて読んでもらうことを通じて、抵抗なくSFの本質的な面白さ(センス・オブ・ワンダー)に触れてもらうことを目的とした方法だ。

私は今年の東北大SF・推理研を見学しにやってきた人のうち、ほぼ全員にこれをしかけ、例年の約2倍の人たちに入部してもらった。(半ばテロ的ではあったが、元々このサークルに多少なりとも興味があってやってきた人たちであるし、結果的に効果を実証出来たので問題ないということにしておく)

この手法はSF界のみならず、読書界全体にとって有益だと思うので、この場でやり方を紹介することを通じてより多くの人たちに知っていただきたいと考えている。

各ステップで紹介している作品は厳格に読んでもらう順番があるわけではないのだが、一応左から順に読んでもらうと効果的だと思う。

1.『暑さ』

これさえ読んでくれればあとはこっちのもの。圧倒的な面白さでSF初心者の心をがっちり捉え、次のステップにつなげる。

しかし、ここで焦ってはいけない。『暑さ』自体を読ませるのは多少無理矢理でもいいのだが、『暑さ』を読み終わった時点で「もっと面白いのがあるんだけど、どう?」という感じで自発的にSF初心者の「もっと読みたい」という気持ちを引き出さないと、この先のステップが強制的な読書になってしまい面白さが減じてしまう。

相手の様子を見ながら、無理せず次のステップに進むことが大事。一番大事なのはSFに対する抵抗感を持たせないことにある。SFが嫌いでなければ、いつかまた自分からSFを読んでくれる可能性もあるからだ。

また、各ステップの間で、感想を求めるとより効果的。読んだ直後にSF初心者本人が自分言葉で感想を言語化することによって、自分がどこに面白さを感じたのか、自覚する(フィードバックを得る)ことが出来る。(ついでに読書の傾向や好みも話から分かってくると思うので、3ステップすべてが済んだ後に改めて薦める本のアタリをつけることが出来る)

 

2.『おーい、でてこーい』『ゆきとどいた生活』

この2つでSFをチラ見せする。どちらも昔読んだことのある人が多いだろうが、高校生・大学生くらいでもういちど読み直すと、かつては気づけなかった圧倒的な面白さに気づくことだろう。SF初心者の期待を最高潮に押し上げ、最後のステップにつなげる。

多分「昔読んだ時よりも面白い」などという感想が出てくると思うので、どんな面白さに気付いてそう感じたのかなどを聞いてみるといいと思う。

ついでに、ここらへんで星新一本人に関する話をしてみるのもいいかもしれない。星新一の徹底した「エロ・グロ・ナンセンス・時事ネタ」の排除に関する話や、時代に合わせた書き換えの話など、子供のころ読んでいた時とは違う観点からの読書の楽しさを示唆すると、食いつきがよかった。

 

3.『生活維持省』『殉教』『処刑』

最後は星新一の最高傑作3つでたたみかける。日本SF最高のセンス・オブ・ワンダーで読んでいるSF初心者の価値観に揺さぶりをかけ、SFへの興味関心を最大限まで高める。

このステップを踏めば、必ずやSFに興味をもってくれることだろう。

これまでの自分の体験でいえば、その場で「ボッコちゃん」をうきうきで借りていく人がいたり、そのまま一冊読み通してしまう人がいたり、短篇SFの傑作をもっと読みたいから教えてくれと言ってくる人がいたりと大成功も大成功だった。

 

この後は、どんな作品を読みたいかを聞いてみて、そこから薦める作品を決める流れになる。東北大SF研だと、部室に青背が大量にあるのでその中から探して無償で貸し出すというようなことをしている。(あと個人的な好みで筒井康隆の短篇を薦めたりもする)

また、今回利用した6作はすべて新潮文庫の「ボッコちゃん」と「ようこそ地球さん」の2冊に収録されているので、実際に人に薦めるときでも2冊だけ貸せば大丈夫というところもこの方法の利点のひとつ。 

ボッコちゃん (新潮文庫)

ボッコちゃん (新潮文庫)

 
ようこそ地球さん (新潮文庫)

ようこそ地球さん (新潮文庫)

 

星新一なんて今時の若い人が今さら読むの? と疑問に思うかもしれないが、実際にこの方法を試せばその効果が分かるはず。この方法の成功から、星新一の作品は今でも全然色褪せることなく楽しめる作品だということも示される。

東北大SF研を訪ねてくる新入生の8割は伊藤計劃で初めてSFに触れたという人で、日本SF御三家は教科書に載ってたのを読んだくらい、といった感じだ。それでも成功しているんだから、この方法は広く一般的に通用するのではないかと思う。(ほぼほぼ星新一作品の威力だけで成り立っているのだが)

この手法の注意点だが、間違ってもSFに興味のない人に無理矢理行ってはいけないということだ。この方法はあくまでもSFに少なからず興味がある人に向けた方法なので、無理に読ませて万が一でもSFに対して苦手意識などをもたせてしまうと将来的なリカバリーが利かない。この方法も完全に万能と言うわけではないので、注意点をよく理解して、適切に行っていただけるとありがたい。(一応去年に初めて試した際の反省点を今年修正しているので、多少なりとも洗練された手法ではあるはずだが) 

ぜひこの文章を読んだ人にも実践してもらって、修正すべきところを修正して、SF界隈だけでなく読書界隈全体が活気づくようにしていけたらと思う。修正点はコメントやツイッター(@ss_scifi)などで気軽にお知らせください。

 

 

この3ステップが済んだ初心者に対してさらにほかの作品を薦めるためのリストも作成したので、こちらもぜひ参考にしていただければありがたい。 

shiyuu-sf.hatenablog.com

ほかにも、初心者本人が読みたいSFを探すための作品紹介もあるので、こちらもどうぞ。 

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