SF游歩道

語ろう、感電するほどのSFを!

夏におすすめな名作SF小説15選

まだ7月だというのに、厳しい暑さが続く毎日。

そんな暑さを忘れて没頭できるような、夏におすすめのSFを紹介する。

 

夏篇

まずは率直に「夏」を扱ったSF作品から。

なかなか選ぶのは難しいが、国内外からこれぞという作品を紹介する。

国内篇

『暑さ』(星新一新潮文庫「ボッコちゃん」収録)
ボッコちゃん (新潮文庫)

ボッコちゃん (新潮文庫)

 

トップバッターは『暑さ』とドストレートな作品。星新一の最初期傑作選にして代表的な作品集「ボッコちゃん」に収録されている。

主人公は交番に勤務する警官。ある日暑さで頭がやられたのか、「自分を逮捕してほしい」という男が交番にやってきた。この暑さならしかたないと、涼しい交番でゆっくりと男の話を聞くのだが……

流石は星新一、非常に読みやすく、この上なく面白い。この作品以外にもこの作品集には『生活維持省』『ゆきとどいた生活』『おーい、でてこーい』など星新一の代表作が多数収録されている。どの作品も短く、隙間時間に読めるので忙しい人にもおすすめ。

『睡魔のいる夏』(筒井康隆、角川文庫「佇むひと リリカル短篇集」他収録)
佇むひと―リリカル短篇集 (角川文庫)

佇むひと―リリカル短篇集 (角川文庫)

 

筒井康隆の初期作品。筒井作品の中でも個人的にかなりお気に入りの作品でもある。

夏の暑い午後の澄んだ青い空に、インクを垂らしたかのような白い煙が見えた。暑さのせいだろうか、身体がどうにもだるくて、ひどくねむい。まわりを見ると、寝ているのだろうか、死んでいるのだろうか、多くの人がぐったりと動きを止めていた。

うだるような夏の暑さと、けだるい死の雰囲気がたまらない傑作。まさに『睡魔のいる夏』というにふさわしい。

筒井ファンとしては、「ウルトラマリンの空」「翡翠の眼」などという初期作品特有の、「色を使った比喩」にも注目したい。また、80年代以降の流れるような言葉の連なりとは異なり、悪く言えば少し下手でぎこちない文章なのだが、そのぎこちなさがこの小説の雰囲気を高めている。

『常夏の夜』(藤井太洋ハヤカワ文庫JA「公正的戦闘規範」収録)
公正的戦闘規範 (ハヤカワ文庫JA)

公正的戦闘規範 (ハヤカワ文庫JA)

 

現代日本SFを代表する作家、藤井太洋の処女短篇集に収録された作品。藤井太洋は『オービタル・クラウド』で第35回日本SF大賞、第45回星雲賞国内長編部門を受賞している。

『常夏の夜』は自然災害の被害を受けて復興の途上にあるフィリピンのセブ島が舞台。量子コンピュータによる技術革新と、それによって生じる人類の新たな可能性を描いた作品で、藤井太洋らしい、技術革新による人類の新たな発展と、若い世代への前向きな期待が魅力的。常夏の島で描き出される未来への展望は、秀逸なラストシーンとともに、読んだ人の心に深く残ることになるだろう。

藤井太洋の描く未来は、いかにも数年後に実現しそうな、現実から地続きの未来だ。SFでありながら現実味のある物語を描くというのは非常に困難なことだが、藤井太洋はまるで未来を手に取っているかのように描き出してしまう。表題作『公正的戦闘規範』を筆頭に、見逃せない一冊。

海外篇

夏への扉』(ロバート・A・ハインライン、ハヤカワ文庫SF)
夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

 

SFでも屈指の知名度を誇る名作。夏SFといったらまず挙がるのがこの作品ではないだろうか。

猫のピートは、いつでも「夏への扉」を探していた。そして主人公のダンも。自らの発明品を横取りされ、反撃叶わず無理矢理冷凍睡眠させられてしまったダンは、30年後の2000年に目覚めてしまった。元居た30年前の世界へと戻ろうとするダンの前に現れたものとは……

ハインラインのジュヴナイルSF(10代向けのSF小説)ということで、非常に読みやすいのも魅力。これまでSFを読んだことがないという人でも、気軽に読むことが出来る。小尾芙佐による新訳版が同じ早川書房から単行本としても刊行されているので、書店などで読み比べた上で、読みやすいと感じた方を買うのもいいかもしれない。

『ハローサマー、グッドバイ』(マイクル・コーニイ、河出文庫
ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

 

恋愛SFの名手、コーニイの代表作。「SF史上最大の大どんでん返し」があることでも知られ、抒情的に描かれた物語が最後の数頁で鮮やかに色変わりする。

首都アニカに住む少年ドローヴは、毎年夏になると避暑のために海辺の町パラークシを訪れていた。今年も家族とともにパラークシに向かうと、そこでかわいい少女ブラウンアイズと再会した。しかし、楽しいはずの休暇に戦争の影が忍び寄っていた……

SFではあるのだが、特に難しい言葉も複雑な舞台設定もなく、変に身構える必要はない。物語の舞台は地球ではないのだが、登場する人間たちはみんな「人間」と同じ心身なので、普通の恋愛小説として読むことが出来る。

色々と語りたいところだが、多く書くとうっかり筆を滑らせそうなので、ここまでにしたい。「大どんでん返し」が気になる方は、ぜひご一読を。

『逆行の夏』(ジョン・ヴァーリイ、ハヤカワ文庫SF「逆行の夏」収録)

70年代後半から80年代のアメリカSFを代表する作家、ジョン・ヴァーリイの傑作選から選出。

表題作『逆行の夏』は水星が舞台。水性では、公転と自転の関係で太陽が常に南中の位置にある「逆行の夏」という季節が存在する。この「逆行の夏」に、母と暮らす主人公ティミーを訪ねて月からクローンの姉がやって来た。「逆行の夏」における水星の観光名所、水銀洞に姉とふたりで向かうが……

幻想的な水銀洞の風景の中で描き出される、ある種グロテスクな真実は、読んだ人にセンス・オブ・ワンダーをもたらす。ヒューゴー賞*1ネビュラ賞*2受賞作も収録されており、ヴァーリイだけでなく、当時のSF界隈の雰囲気も感じることが出来る。

『童童の夏』(夏茄、「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」収録)
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)

 

今注目を集めている中国SFアンソロジーから選出。

幼い童童トントンの家に、祖母を喪って独りになった気難しい祖父がやってきた。そしてテスト用の介護ロボットの「阿福アーフー」がやってきて、童童の生活は大きく変わった。実は阿福はロボットではなく、人間が遠隔操作するインターフェースであり、操作する王おじさんや最新式のデバイスを通じて、童童は苦手な祖父と交流するようになる。

自らの書くSFを「ポリッジ(おかゆ)SF」といい、中国における「硬科幻」と「軟科幻」の対立と対比させている夏茄シア・ジアの作品は、SF内部のサブジャンルの垣根はおろか、SFとファンタジー、SFと純文学といったジャンルそのものの垣根を軽々と越えていく。日本では本アンソロジー収録の『百鬼夜行街』『童童の夏』『龍馬夜行』の3作のほか、『カルメン』(SFマガジン2007年6月号掲載)の計4作しか紹介されていないため、これからの翻訳・紹介に期待が高まる。

アメリカの中国系SF作家ケン・リュウの翻訳によって、英語圏における中国SFの動きに注目が集まっている。ケン・リュウによる中国SFアンソロジーの第二弾の刊行が発表されていることもあり、ますます見逃せないものとなりそうだ。

 

戦争篇

毎年夏になると思い浮かべるのは、戦争のこと。

日本SF御三家の作品をはじめ、日本SFは太平洋戦争をテーマにした作品が多く、また名作も多い。

『くだんのはは』『召集令状』(小松左京角川ホラー文庫「霧が晴れた時」他収録)

どちらも小松左京の最高傑作のひとつ。小松左京の戦争SFには、小松左京自身の戦争体験が深く反映されている。

『くだんのはは』は昭和20年の夏の神戸の芦屋が舞台で、呉空襲によって家を失った少年が芦屋のお屋敷に疎開するところから物語が始まる。屋敷は女主人と数人の使用人だけの、大きさに見合わない寂しい屋敷で、主人公の少年は屋敷の離れで父とともに暮らすことになる。女主人には妙な言動が多く、示唆的な物言いや、戦争の行方、果てには日本の敗戦をも言い当てる。どうも女主人は何かを隠しているらしい。少年は女主人に入ることを禁じられた、母屋の二階へと足を踏み入れる……

召集令状』は戦後生まれの世代が社会人になった昭和40年代が舞台。戦争を知らない20代の若者に、ある日突然「赤紙」が届く。当初は戦前回帰を唱える右翼団体のたちの悪いいたずらと思われていたが、「出征日」に「赤紙」を受け取った若者が失踪する事件が相次ぎ、さらには「戦死公報」まで届くようになった。どうも「もうひとつの世界」では、戦争がまだ続いており、若者から始まった召集は、40代以上の老兵や従来なら徴兵不適格とされるはずの虚弱者にも範囲が広がり、学徒徴兵、そして15歳以上の男性への総動員令に至った……

小松左京終戦当時14歳。同い年ぐらいの少年たちが、沖縄では祖国のために次々と死んでいっていったにも関わらず、自分は国に殉ずることすら出来なかった。なぜ自分も戦争で死ぬことが出来なかったのだろう。自分は、そして日本は、あの戦争から何を得たのだろう。戦争を、そして日本という国そのものを自己の問題ととらえて生涯をかけて追及した作家が、SFという手段を用いて描き出した物語。毎年夏になると引っ張り出して読んでいる自分がいる。

『地には平和を』(小松左京ハヤカワ文庫JA「日本SF傑作選2 小松左京」収録)

小松左京の(厳密に言うと)デビュー前の作品で、出世作『お茶漬けの味』とともに第50回直木賞候補作になった作品でもある。個人的にはこれも小松左京の最高傑作のひとつだと思う。

作中では昭和20年8月15日(現実では日本が降伏した日)に陸軍主導のクーデターが起こり、10月に入っても泥沼の本土決戦が続いている。アメリカを中心とする連合国軍の大兵力によって日本は完全に分断され、勝てる見込みはまったくない。学徒徴兵された15歳の河野康夫は必死の抗戦を試みるも、ついに瀕死の重傷を負い、自決の覚悟を決めた。しかし、謎の人物に助けられて……

この作品は、昭和20年8月14日深夜に発生した「宮城(きゅうじょう)事件」という陸軍クーデターが成功していた世界線を描く「オルタナSF*3」だ。この「宮城事件」については映画化もされた半藤一利のノンフィクション『日本のいちばん長い日 決定版』(文春文庫)が詳しい。興味のある方はぜひこちらもどうぞ。

また、小松左京の作品には絶版となってしまった作品が多く、この作品も入手困難になっていた。日下三蔵編集の「日本SF傑作選」でやっと復刊したので、この機会にぜひ。

東海道戦争』『ベトナム観光公社』(筒井康隆ハヤカワ文庫JA「日本SF傑作選1 筒井康隆」収録)

戦争を自己の問題・直接的な問題ととらえた小松左京とは対照的に、筒井康隆は徹底的に戦争を他者のもたらす外部的な問題・間接的な問題として、また一種の馬鹿騒ぎとしてとらえた。

1965年に発表された『東海道戦争』は、64年の東京オリンピックと70年の大阪万博の間の時代を舞台にしている。特に意味もなく突然東京ー大阪間で勃発した戦争に、これまた特に目的も持たない大衆が次々参加しては犬死にしていく。スプラッタ的、スラップスティック的に描かれる「東海道戦争」は、まさに現代文化に合うように戯画化された戦争であり、イベント化された戦争だ。

ベトナム観光公社』もイベント化された戦争を描く、第58回直木賞候補にもなった作品。観光公社が出し物として観光客向けに再現する「ベトナム戦争」を描く作品で、本物のベトナム戦争が続いていたころに発表された。「ベ平連」(「ベトナムに平和を!市民連合」)の活動が華やかなりしころ発表されたこの作品は、軽薄、悪趣味などと批判されたが、実際のベトナム戦争をメディア越しに見聞きするというのは確かに軽薄で悪趣味だったことだろう。

「戦争」という行為を徹底的に馬鹿にしたようなこれらの作品は、小松左京とは異なる形で戦争に対する問題意識を呈しているともとれる。小松左京の示した態度と比較しながら読んでほしい作品。 

shiyuu-sf.hatenablog.com

『マイナス・ゼロ』(広瀬正集英社文庫) 
マイナス・ゼロ (集英社文庫)

マイナス・ゼロ (集英社文庫)

 

若くして亡くなった才能あふれる作家広瀬正の代表作。「時に憑かれた作家」といわれた広瀬正の描いたタイムトラベルSFで、第64回直木賞候補作でもある。

昭和20年5月26日午前零時ごろ、東京への空襲のさなかで、世田谷・梅ヶ丘に住んでいた中学2年の浜田俊夫は隣に住む伊沢先生から「18年後の同日同時刻にまたここに来てほしい」という遺言を受け取った。昭和38年に再び梅ヶ丘にやってきた俊夫は、18年前からタイムマシンによってやってきた、空襲で行方不明になった伊沢先生の愛娘・啓子に出会った。そして俊夫がタイムマシンの試運転のために向かった先は、29年前の古き良き東京だった……

空襲によって灰燼に帰した思い出の東京の景色が、目の前にあるかのような精細な描写によって鮮やかによみがえる。戦前はおろか、20世紀の東京すら知らない自分ですらも、強烈なノスタルジーを感じてしまう。建築を専攻していた広瀬正によって再建された昭和十年代の東京は、まさに「神は細部に宿る」を体現している。

先に挙げた小松左京筒井康隆の作品よりも戦争成分は間接的なので、戦争を扱ったSFとしてではなく、タイムトラベルSFをよむつもりで気軽に読むことも出来る。

 

氷篇

暑い夏ぐらい、涼しくなれる作品を読みたい。SFはそんな思いにもこたえてくれる。

国内篇

『第四間氷期』(安部公房新潮文庫) 
第四間氷期 (新潮文庫)

第四間氷期 (新潮文庫)

 

ノーベル文学賞受賞目前といわれた安部公房の、先駆的なSF作品。「氷SF」と銘打ったものの、若干違うかもしれない。

ソビエトで開発された電子計算予言機《モスクワ1号》に対抗して、日本でも電子頭脳の開発が行われていた。この電子頭脳の性能試験のため、街で見かけた冴えない中年男性に関する個人的な未来予知を行おうとするが、やがて数奇な事件へと巻き込まれていく……

機械による未来予知を物語の中心に据え、1959年の発表当時の人々が抱いていた、あまりにも楽観的な未来観に対して疑念を呈した作品。「未来とはどのようなものか」という純文学的疑問に対してSF的手法を用いて回答を与えようとする試みが現れている。

安部公房と言えば純文学作家だと考えている人が多いかもしれないが、実は星新一とは互いに敵視しあう関係であったり、短篇『R62号の発明』や本作のようにSF的な作品を書いていたりと、SFにも関係が深い作家だった。こうして考えてみると、やれSFだ、純文学だなどというジャンル分けは、そもそも必要ないのではないかとも思える。

海外篇

『氷』(アンナ・カヴァンちくま文庫) 
氷 (ちくま文庫)

氷 (ちくま文庫)

 

厳密にいうとSFから外れるのかもしれないが、かつてはサンリオSF文庫から刊行されていたのでSFということにしておく。

この作品では、無慈悲な氷に包まれていく世界でひとりの少女を追う男の視点が中心となっている。世界を侵食する氷の脅威が増す中で次第に無政府状態に陥っていく世界の様子や、少女を追うもうひとりの男である専制的な「長官」、そして少女を救済するべき男の専制的な態度が、文章の中でうつろいゆく不安定な視点によって描かれる。

作者アンナ・カヴァンの死後に発表されたこの作品は、カヴァンの傑作として今もなお高く評価されている。カヴァンは精神の安定のためヘロインを常用していた作家で、この作品にはカヴァンの抱く「世界への不安」や薬物使用による幻覚体験などが反映されている。サンリオSF文庫で紹介されて以降、いちど復刊されてまた絶版となってしまっていたが、ついにちくま文庫で待望の再復刊を果たした。

おしゃれな表紙とともに、まとわりつくような夏の暑さを忘れて、滅びゆく氷の世界の情景と自分を見失う快感をどうぞ。

 

 

日本SF御三家から藤井太洋ハインラインから夏茄まで、古今東西の夏におすすめなSF15選を紹介したが、読みたくなった本はあっただろうか。これから8月、暑さもまだまだ続くが、夏休みやお盆休みなど時間が出来たときに楽しんでいただきたい。

夏に限らず、おすすめのSF小説を20冊紹介した記事もあるので、そちらもぜひ。古今東西バランスのいい紹介になっている。
shiyuu-sf.hatenablog.com

*1:世界SF大会において、(プロ作家などを含む)全世界のSFファンの投票によって年一度選ばれる賞。ネビュラ賞・世界幻想文学賞とともに、三大SF文学賞のひとつに数えられる。

*2:アメリカSFファンタジー作家協会(SFWA)の会員投票によって年一度選ばれる賞。こちらは一般のSFファンは投票が出来ない。

*3:ありえるかもしれなかった「もうひとつの歴史」を描く、歴史改変SFのこと。「歴史改変SF」だとなんとなく締まらないので、英語の"Alternated History"から「オルタナ」という呼び名を個人的に提唱している。